ivy

[路端のブランチ]vol.4
禁断の盤を回すとき

Column

ピザがあるか、ないか。私たちが何もない場所に集まるとき、それはそれは大きな問題だ。
ピザがそこにあれば、駐車場だろうが、後輩の四畳半だろうが、いいわけで。

さらにいうと、冷凍ピザか宅配ピザか。たぶんこの違いは字面より大きい。特にそれが、みんなで集まる場だとしたら、その場にいる人のテンションを大きく揺さぶる。多分それをどちらにするかは、DJがレコードに針を落とす瞬間くらい、大事な選択を迫られる。

ピザをチンするなんて冒涜だ、断固認めない!という原理主義者の友人を多く抱える私は、多くの友人と同じように、ピザは宅配orイートイン派だった。

しかしなんせ、日本では、ピザという食べ物に奇妙な付加価値がついている。なんだよ、ピザのミニマムが¥2,000って……。おい、こら、正気かよ、と。

NYをリュック一つで貧乏旅行したときなんか、めちゃくちゃ汚い高架下のピザ屋で立ち食いしながらルートビアで流し込んだけど、ピザってそういうものでいいと思うんだ。1切れ1ドル。腹を満たすためにとりあえず、時間も金も、なんなら皿もフォークもないけど、何か食べたい。というか、食べなきゃ。そういうさ。

で、最近ね。よく考えたらチェーンの宅配ピザ屋にガチの石窯なんてないだろうし、なんやかんや自宅のオーブンでできるよね、なんていう当たり前なことに気づいてから、冷凍ピザにハマっているんだ。

こんなご時世だから、みんなで集まってどんちゃん騒ぎとも行かないけれど。久々に仲間を家に呼んだとき、例の如くピザを振る舞う。

「プロジェクター買ったから、映画見ながらピザでも食べようよ」

意気揚々と集まった面々に、ハナマサの袋から取り出した、カッピカピの冷凍ピザ。おいおい嘘だろ、フロアがざわつく。もうこれは、オルガンバーでKID ROCKをかけるくらいの暴挙だよ。うん。

さて、その時点で私はほくそ笑んでいるわけだ。シュレッドチーズをあり得ないくらいの量トッピングして、仕込んでおいた肉を乗せ、切ったトマトとバジルを乗せ、オーブンにぶち込む。

どうだ。見たか、ビビったか、たじろいだか。おそらく、宅配ピザにはまず負けないクオリティなはず。精一杯のドヤ顔でテーブルに置く時、漏れ出す歓声に、この上なく気分が上がる。材料費合わせて宅配ピザの3分の1ッ!

してやったり……。

ピザを真ん中に置いた駆け引きに勝つ瞬間である。勝利の美酒に酔いしれながら食うピザの旨さは勿論ながら、格別。たとえその後の映画が駄々滑りしたってノー・プロブレム。

とにかく、ハナマサの冷凍ピザは旨い。以上。

[路端のブランチ 序文]

 日曜日、時計を外す。
 そろそろ昼飯を食っておこうとか、もう帰ろう、とか考えることすら億劫だ。あまりに遅刻癖が治らないから、仕方なく間に合わせのチープカシオを平日だけつけるけれど、基本的には時計を見られない。類は友を呼ぶというが、周りもそんな輩が不思議に多い。
 そういう奴らと遊んだり、野暮用を済ませたりすると、自ずと昼飯はグダラグダリとしてしまう。開店前に並ばなきゃいけない飯屋に休みの日を使ってわざわざ行くなんて、僕らの頭には浮かばない。
 時間を気にせず、その時いた場所でサクッと食うメシが一番だ。   
ivy