東京八王子「カザーナコーヒー」
突然送ったインタビューの依頼メールに、「先日は珈琲豆のご注文ありがとうございました。」と、お言葉を添えてをくださったことが印象的でした。
カザーナコーヒーさんは八王子に店舗を構えるスペシャルティ専門のコーヒー豆焙煎店。2006年から専門店として八王子内外によく知られているお店です。
今回は八王子でカザーナコーヒーの代表栗原さんにお話を伺いました。
JR八王子駅から10分程歩いた場所、中心地から少し離れた「みずき通り」という小さな商店街にお店はあります。緑が生き生きと植えられているのが見える小さな珈琲屋の看板は、近所にあればついつい立ち寄ってしまいたくなるような雰囲気。
カザーナコーヒーは業界ではもちろんだが、八王子では特に有名な店だと聞いています。2度の移転を経て現在の店舗の場所になったのが2018年。創業当初の店があった場所の向かいにあります。
–「今できるベストを尽くすだけ」
栗原さんの真摯なコーヒーへの向き合い方
-2006年の創業ということですが、なぜ珈琲屋を始めたのですか?
妻も自分も学生時代からお世話になっている八王子のIndraさんに、隣の物件(2坪半のスペース)が空いたから何かやってみない?と、声を掛けて頂き開業を決めました。
何故コーヒー豆屋だったのかというと、カフェやコーヒー豆の販売等の仕事に携わってきた経験があったのがきっかけです。が、焙煎士の妻は当時コーヒーが飲めなかったんですよ。「コーヒーの香りは好き」とは言っておりましたが(笑)。今、思うとその状況で「コーヒーの豆屋をやりたい」って、よく始めたよな、と思います(笑)。
その後、次第に良い品質のコーヒーなら飲めるようになって。。。品質の良し悪しも徐々に判るようになってきて。。。
あぁ、そうだ!今度、その物語を描いてみたいと思います。タイトルは「妻はコーヒーがのめない」(笑)。
あっと、すみません。取り乱しました。。。次に行きましょう。
-どんな店を作りたいと思っていましたか?
開業する前に、もしコーヒー豆屋をやるんだったら「最も品質の良いお豆を取り扱いたい」と話し合った記憶があります。
品質が良い生豆を探していくうちにLCF、日本に於けるスペシャルティコーヒーのパイオニアでもある堀口さん(現 HORIGUCHI Coffee会長 堀口俊英氏)の存在を知りまして、その後、堀口さんに相談、お願いをして取り扱わせて頂けることになり、以来ずっとお世話になっています。もし堀口さん、LCFが取り扱うコーヒー豆に出会えていなかったら、多分、お店を続けてくることは出来なかったんじゃないかと思っています。
開業当初はドリンクの提供もなく試飲のみでシンプルに焙煎したお豆の販売だけをやっていました。具体的なイメージはありませんでしたが漠然と「コーヒー豆が主役」のお店を作れたら、と思っていました。
-喫茶店というよりは、本当にお店全部が珈琲を楽しむための場所なんですね。
はい。自分達はコーヒー豆の専門店だと思っています。
なので店内の座席も向かい合って座れる席はなく、ベンチの前に小さなテーブルがあるだけで、コーヒーと向き合って頂くための場所とさせて頂いています。
コーヒーって言うと一般的に「黒い」「苦い」というイメージをお持ちの方がまだまだ多くいらっしゃるのかな、という印象を抱いているのですが(そうではない方もとても増えたと思います!)、良いコーヒーに出会って、そういった固定観念や思い込みから自由になれて、例えば産地や品種、作り手の違いによる個性の違い、風味や質感だったり、同じ素材でも焙煎の仕方で異なる表情が現れたり、コーヒーの多様性を知って頂き、お愉しみ頂ける場所にできたら、と常々考えています。
-なるほど、長年焙煎をしていて当初からの変遷を教えてください。
開業当初から数年、妻がひとりで焙煎し、営業していました。2010年から自分も焙煎をするようになったのですが、実際に焙煎するようになって、目の前にあるコーヒー豆が「どんな場所で、どんな人によって育まれのか?」とか「このコーヒー豆はどんな仕上がりにするのが良いのか?」という疑問を感じるようになってきました。
それから夫婦で互いに焙煎するようになり、コーヒー豆の素材の特徴を引き出すための視点が増え、素材の魅力を探るための試行錯誤の時間、アプローチの方法が増えました。
というと格好良く聞こえるかもしれませんが、焙煎の仕上げの1℃の違いや、数秒の差で沢山ぶつかったりもしましたよ(笑)。
振り返ると、そんなことを繰り返すうちに徐々に価値観や感覚を共有できるようになってきたのかな、と思います。
-なるほど、コーヒーと向き合う中で様々な試練や挑戦があるんですね。
単純に良い仕上がりに辿り着けた時には「おおっ」ってなりますし、焙煎に関しても抽出にしても試行錯誤を繰り返すうちに「こうするとこういう風になる」という「引き出し」が少しずつ増えてきて、これからも少しずつ増やしていけたらと思っています。
焙煎、抽出に関して言うと「どうしてこの素材はこういう風に仕上げるのか?」
その理由がカップを通じてダイレクトにお伝えできたら、と思うので、その素材の魅力をどこまで引き出せているのかな?ということは常に考えてしまいますね。なので自分達は淡々と今できるベストを尽くしているだけという感じです。
–「うちのお客様は素敵な方が多いですよ」
間髪入れない回答は、お客様との信頼関係から。
-八王子お店大賞も受賞されているんですね。
はい。2017年、とてもありがたい出来事でした。
自分達が取り組んでいることが結果として八王子市や地域にもお役に立てたらとても嬉しいですし、これからも「人」と「人」との、また「人」と「コーヒー」とのコミュニケーションを大切にしながら続けていけたらと思います。
うちはお客様がご来店された時に「いらっしゃいませ」と言わずに挨拶をしています。
「お客様」と「お店の人」という関係よりもまず先に「人」と「人」であることを大切にしたいと思っているからです。
お互いに敬意を持つことができて初めて良い関係は生まれてくるのかな?と。
そこを大事にしていきたいなと思ってやっているので、今、自然と素敵な方々と良い関係を築けているのかなと思っています。
-だから地域の方に根強く人気があるんですね。
お客様はどんな方が多いですか?
素敵な方が多いですよ。
お客様の中にはさりげなく気遣ってくださって、混んでくるとサッと席を譲るようにお帰りになる方や、自分の注文はゆっくりでいいよー、と声を掛けてくださる方もいらっしゃったり、言葉を交わさなくても注文と受け渡しができるような粋な方もいらっしゃいます。
正直、お店を続けていると数えられない程、沢山の失敗やうっかりミス、反省もあるのですが、多くのお客様に支えて頂いて今日までお店を続けてくることができました。
日々、お客様から沢山、元気を戴きますし、戴いた以上に何かお返しできたらと思うので、これからも選んで頂いたコーヒー豆がお客様の元で美味しく召し上がって頂けるよう、その自分達の眼に見えない光景を想いながら、最善を尽くせたらと思っています。
-物質だけのやり取りじゃないんですね。
はい。コーヒーを通じて物質的なもの以上の「豊かさ」っていう点を大事にしていけたらな、と。
-今後やってみたいことはありますか?新しい店舗を作るなど?
信頼できる方々と共に、感覚、価値観をちゃんと共有できる距離で、今のこういう感じで続けていけて、この環境を大切に育んでいけたらいいなと思っています。
新しい店舗は考えていませんが、昨今お客様にあまりごゆっくりして頂けないお店の現状を思うと、時間や混雑を気にせずゆったりとコーヒーを愉しんで頂ける場所があったら良いな、と思うときもあります。できれば自然の中が良いですかねぇ。。。大草原の真ん中にエスプレッソマシンがポツンとあって、リクライニングチェアとハンモックが各200ずつ位。皆、心置き無くごゆっくりして頂ける(笑)。 どなたかご協力してくださる方がいらっしゃっいましたら是非宜しくお願い致します!
インタビュー中にお店に来るお客様も、皆さまよく慣れた様子で珈琲豆や飲み物を買っていました。
一人ひとりの方をそれぞれ一人の人間として対応しお話をする。
たくさんのお客様を迎える接客業としては難しいこともあるように思いますが、「目の前の方とのコミュニケーションを大切にしている」という言葉に説得力を感じました。
また、豆のことをきちんと知ることができているのか疑問を持ち、常に試行錯誤をしながらやっているというお話もありました。
作物である珈琲豆との向き合い方も、人との関わり方と同様に実直で疑いのないものだなという感想を持ちました。
最後に焙煎の様子も見せていただきました。
カザーナコーヒーさんの焙煎は優しく甘さと心地良さのある味に仕上がる印象です。
カザーナコーヒー
〒192-0066
東京都八王子市本町2−5 1F