[路端のブランチ]vol.28 ゴールデン街、深夜の罪な味

Column

いけないことは、楽しいことだ。それを私たちは知っている。

夜中のアイスクリーム、寝る前の珈琲、そしてやっぱり、〆のラーメン。なんにせよ、夜中に食べるのは、身体に良くない。それは間違いない。ましてそれが高カロリーであればあるほど。

しかし、だからこそ上記の3つは、これほどまでに魅力的だ。

さて、新宿ゴールデン街にあるサブカルバーで知人のイベントがあった、とある週末。別に大したことを話すわけでもないが、久々の再会になかなか席が空かない。みんなで金を出しあったキープボトルを少しずつ空けて、気づけば終電のやつがチラホラ。そろそろ私も帰るかな、と腰を浮かせた。

あれ、なんだかおかしいぞ。答えは単純、腹が減った。この手の呑み屋は、なかなか飯にありつけない。仕方がないことだけど、駆けつけて長居したら、飯を食い損ねる。

ああ、仕方がない。学生の頃から、絶対に太るからと避けていた、あの文化的行動をやるしかない。

「よし、ラーメン行こ」

同時に席を立った友だちがあっけらかんと言う。一軒目までは確かにあった、罪悪感や健康への執着は、恐らくどこかへ置いてきたんだ。

店を出たら私とその友だちにゾロゾロ2,3人ついてきた。ゴールデン街の如何わしい飲み屋を4,5軒スルーしたら、突如現れるラーメン屋。ライブハウスみたいな狭い入口に、二階へ上がる階段、うなぎの寝床みたいな店だ。

早速、意気揚々と階段を駆け上がる。

「あの…並んてるんですけど」

怒りを抑えたやけに冷たい声の主は、入口の影で待っていたお姉さん。おっと、これは失礼。

待つ間、厄介なのは階段の外、寒空の下で待たなくてはならないこと。手が悴んで、胃が縮みそう。諦めようか、少し待つか、でもあとせいぜい2人…。

「お先お待ちの1名様、どうぞ」

ああ、仕方ない。もうここで解散だな。ありがとう、今日も楽しかったよ。

ドアが開いて、煮干出汁の香りが脳と食欲に、強烈な一撃を食らわせる。先に友人が鰻の寝床へ消えて、待たされる間、ドアから漏れた香りをすでに欲している。

このとき既に、先ほどまでの「〆のラーメンはいけないこと」っていう感覚は消え失せているんだ。早くこい、今か、今か。

ようやく順番が回ってきて、注文したのは、煮干そば、大盛り。ここまで来て腹八分目とかいっていられないでしょ?さあ来い、腹にドンと。

ズズズズズルッ

爆音を轟かせながら豪快にすする。吸い上げるごとに脳が先程の香りで満たされて、進むほどに食欲が刺激される。

視覚にも容赦ない攻撃。平打でモチモチした太目の麺、黒っぽい濁りのつゆ、箸で持ち上げるのも一苦労なホロホロ焼豚。

気がついた頃には、すっかり、スープも麺もフィニッシュ!

腰を上げたら、今度もまた違和感が…ああ、身体が重い。いかん、食い過ぎた。入口で合流した友だちと顔を見合わせる。

まあ、いいか。たまには。さあ、駅へ行こうか。

日曜日、時計を外す。
 そろそろ昼飯を食っておこうとか、もう帰ろう、とか考えることすら億劫だ。あまりに遅刻癖が治らないから、仕方なく間に合わせのチープカシオを平日だけつけるけれど、基本的には時計を見られない。類は友を呼ぶというが、周りもそんな輩が不思議に多い。

 そういう奴らと遊んだり、野暮用を済ませたりすると、自ずと昼飯はグダラグダリとしてしまう。開店前に並ばなきゃいけない飯屋に休みの日を使ってわざわざ行くなんて、僕らの頭には浮かばない。
 時間を気にせず、その時いた場所でサクッと食うメシが一番だ。   iv
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