File 07

ANTHEM ROASTERY

福岡県飯塚市。県の中心部に位置するその市は山に囲まれた地形で本日の取材に向かう道中はとても自然が豊かで気持ちが良い。

2020年1月に「ANTHEM ROASTERY」という焙煎所をオープンした古賀さんは飯塚市の出身。

自然に囲まれた一軒家にて取材を受けてくださいました。

インタビュー:Nana Hiro

写真:中村圭甫

自然に囲まれた中にある一軒家が焙煎所

—コーヒーとの出会いは?

2016年頃に美味しいと評判を聞いた福岡のコーヒー屋さんで飲んだニカラグアとエチオピアが始まりです。それまで飲めなかったドリップコーヒーを1杯飲み干してしまい2杯飲みました。ラテばかり飲んでいた僕がです。

正直、そのときは「美味しい」という味覚の以前に、これをコーヒーと呼ぶのか、この物体をコーヒーとしてこのお店では売っているのだなという感想でした。

その時点では、自分にとってコーヒーは黒くて苦いもの。スペシャルティコーヒーのことは全く知らず。

しかし、それから何日か経って何故ドリップコーヒーだったのに自分は飲めたのか考えていて。当時既に福岡にはたくさんのコーヒー屋があり、何が違うのかと思い人気店を中心にコーヒー屋さんを巡りました。

その結果、あの時に飲んだあのお店のコーヒーは美味しいものだったのだなと。あれがコーヒーなのだと変に納得してしまい興味を持ちました。

—その当時はどんな仕事をされていた?

飲食店で働いていました。主にサービス業、特に飲食業に多く携わっていましたね。

—もともと独立願望はあったのですか?

なかったです。

コーヒー屋としても飲食店としても…何のジャンルであっても自分で何かを起こすということを一度も考えたことはなかったです。

コーヒーが頭から離れなくなり、それから東京を中心に関東、関西や九州などのコーヒー屋を巡るようになりました。最初はハンドドリップのテクニックやラテアートなどにもとても興味があり様々なタイプのお店を巡りました。

同時に社交場としてどれくらい成り立っているのかも観察し体験しました。

様々なカテゴリーで競技化されていて昔から愛飲家が多いコーヒー。

そうゆうカルチャーや人を肌で感じてみたかったんですね。

それから何度もコーヒー屋にフォーカスした旅行に出かけるのですが2度目、3度目と好みのタイプのお店に絞っていくうちに気付けば自家焙煎店、

ロースターばかり巡っていました。

この頃からです、焙煎への興味が膨れ上がったのは。

学生の時の経験から自分自身に根付いた感覚を思い出した

—焙煎の何に惹きつけられたのでしょうか。

直感的で理論的で、実験的で未知な世界というところです。

焙煎作業が見える店舗で眺めていたその作業の一部始終がとても印象に残っていて、直感的にもっと知りたい、自分にぴったり、やりたい。そう思いました。あくまで直感で。

学生時代に吹奏楽をやっていたのですが、管楽器を吹く際に気にかけることや楽器本体の事と、焙煎の作業や段取りがとても似ていると思っていて、実際に焙煎を始めてみると共通点がたくさんある事に気付きました。

例えば管楽器の練習ではまず楽器を吹く前に自分の体調を問うところから始まります。その日の天候によって楽器の調整をし、しっかり準備をしたうえで楽器を吹きます。

焙煎においても天候はとても影響しますし、体調によってカッピングもブレたりしますよね。

難しく感じるかもしれませんがとても重要な事ですし、結果的に言える事ですが楽器を練習していたあの時のような環境を潜在的に求めていたのかも知れません。

—その行程が根付いていたのですね

そうですね。こつこつやるのが向いているのだと思います。

根付いているものはなかなか取れないのだなあと実感しました。

30歳を目前にして段々と、高校の時の部活の感覚をもう一度味わいたいなと思い出していて、そのような仕事をしたくなりました。焙煎作業をいろんなところで見ていくと自分の中ではそれが一番しっくりときたのだと思います。

—初心者からの焙煎への挑戦とはどのように進めていったのでしょうか。

セミナーなどには参加したことは一度もありません。

コーヒー屋さんに話を伺ったり焙煎作業を見せてもらったり、本やWEB記事などをひたすら漁っていました。

そこで聞き、見つけた情報を片っ端からメモに残して、実践してみる。

11月から3月までひたすらそのメモを頼りに練習焙煎を繰り返していました。

まずは、焙煎の安定性を上げないとといけないのでトライ&エラーの繰り返しです。

もちろん生豆は安価ではなく連続で焙煎はできないのでとにかくカッピングを何度もしました。一人なので時間もかかるし集中力もいる。一度一度を大切にずっと検証していました。

また、他のお店で焙煎している方の様子を客席から眺め、自分なりに時間やテストスプーンで匂いをとるタイミングを観察して参考にしていました。

1バッチ目の豆は記念にとっていますよ。

—この場所を選んだ理由は?

当初は福岡市内で検討していました。

すでに焙煎機は発注済みで、しかしなかなか場所が決まらず状態。

焙煎機到着まであと1ヶ月を切った辺りで頻繁に地元へ帰省しなければならないことがあり、その中で今使わせていただいているこの家のことを考えました。ここは元々祖父の家で家屋自体は良いと思っていたのですが、道が良くないことが懸念事項でした。しかし、喫茶ではなくコーヒー豆屋であれば良いかもしれないと考えを変えて、この場所を使おうと決めました。

様々な面であまり難しく考えず、良い方向に考える思考にするようにしましたね。独立するということは怖いことや不安なことも多いですが。

何もないところからスタートしていて、福岡には本当に美味しいコーヒー屋さんが多く、勉強になることばかり。でも「自分のコーヒー」を忘れずに、比較せずにいる。ということを心掛け日々過ごしています。

—自然が溢れているのでお店を発見するときに嬉しい気持ちになります。

お客様には外の席で飲んでもらい、気持ち良く過ごしていただけているようでよかったです。

ありがたいことに今はイベントの影響やSNS、口コミで来ていただけています。

—焙煎で表現したいことはどのようなことでしょうか。

自己表現をしすぎないように、という部分ですね。

嗜好品だからこそ、好き嫌いははっきり分かれていいものと思っているし、

僕の焙煎ではあるけどこれは僕が今まで飲んできたコーヒーの蓄積データから出た「美味しい」の結晶だと思います。

僕はこういうコーヒーのおかげでコーヒーを飲めるようになりましたというものを出したい。お客さんにも同じような体験をしてもらえる液体をいつか作りたいですね。

飯塚というエリア自体スペシャルティコーヒーを飲める場所がなく、険しい道ではあるのですが、そんな中で興味を持って来てくださる地元の方もいらっしゃいます。そんな方々にかつて喫茶店で飲んでいたコーヒーのようにこれからはこれらが日常のコーヒーというものになるかもしれませんよと伝えています。そうやってゆっくり認知していただきたいですね。

—古賀さんのコーヒーを何度か飲ませていただいていますが、爽やかなイメージです。スッキリしていて飲みやすいコーヒーの印象でいました。ですので、そういう表現をしたいのかなと思っていました。

そう言ってもらえると嬉しいですね。

お客さんにも言われましたが、「ご褒美の一杯というより毎日家で飲めるコーヒー。」と表現していただいたことがありました。

そこを目指して焼いているという意識があったわけではないのですが、周りにそのような意見が増えてきたのであれば沿っていきたい。

自分の意図していないところで頂く評価やご意見こそ大切にしなければなりません。

—お店のこの先の展望はどのようなものでしょうか?

もっとゆっくりコーヒーを飲んでもらえる場所を飯塚に造りたいですね。

ここはあくまで焙煎所なのでゆっくりしてもらえるかというと付近の道路事情もあり少し自信がありません

今現在お越しいただいているお客さまの9割は福岡市の方です。飯塚市在住の方は1割も満たない。

まずは地元の方に愛していただけるようにもっともっと浸透させていきたいですね。

飯塚市自体がベッドタウン化していて、大きなマンションが駅前にたくさん建っています。家族として拠点を置く世帯が増える可能性があるので、1年後くらいには駅前に喫茶のある店を出したい。朝出勤する方にコーヒーを渡したいなと思います。

その時は焙煎機も持っていくかもしれませんね。

焙煎機はただの道具ではなく日常生活で目にすることがない機械なので、視覚的にも楽しいものなので。その時の状況にもよりますが、焙煎機が店舗にあると良いなと思います。

—地方にそういう場所が一つあるといいですよね。

僕が焙煎所を構えた理由の一つに、この筑豊エリア、飯塚で何か始めたいと思っている人たちの刺激になればと思っているんです。

潜在的なひとの刺激になれたらよい

筑豊、飯塚という場所はどうしてもネガティブなイメージが先行しがちで、

カフェやベーカリー、花屋さんなど自分で何かやってみたいと思っている方もそのイメージに勝てずなかなか一歩を踏み出せない。

そんな方がたくさんいると感じています。

自分がコーヒーを焙煎していることを知って背中を押せる要因になってくれたらいいなと。

今、コーヒーはコーヒー屋でしか飲めないという固定概念はなくなっていると思います。花屋さんやベーカリーの他に古着屋さんや本屋さん…こんなに簡単に職業の壁を超えてくれるものなんですよね。何かお店をやりたい人の、コーヒーがあれば良いなという場面で協力できたら嬉しいですね。コーヒーをやっている意味がある。

飯塚にもこんなお店があると認知されることで何かお店を出したい人たちが動くきっかけになれたらいいなと思います。

穏やかにご自身のお話をしてくれた古賀さん。その人柄にも表れている爽やかで優しいコーヒーは自然溢れる焙煎所の雰囲気にとても調和していました。

街の中心だけでなくこのような地方にも止まり木のようなコーヒー屋さんが増えていくことに可能性を感じます。地元に愛され、わざわざ訪れたくなるコーヒー屋さん。古賀さんと美味しいコーヒーに癒されに是非訪れてみてください。

ANTHEM ROASTERY

所在地はDMにてご案内。

anthem-roastery.stores.jp/