タナカトシユキさん(picnicデザイナー)
今回はpicnicを主宰するタナカトシユキさんにインタビューをしました。
タナカさんはものづくりやデザイナーとしてのお仕事をされています。30代で人生を変えるような出会いがあったタナカさんは、どのようにしてpicnicを立ち上げて現在まで運営しているのか。ご自宅で手作りのコロッケランチをいただきながら、食後のコーヒーをいただきます。
写真:西野あゆみ
インタビュー:しば田ゆき
「パスタの茹で加減みたいに、毎回違う味わいを楽しんでいます」
ー今日はよろしくお願いいたします。手作りのキノコのバター醤油味、ブルーチーズコロッケ、とてもおいしかったです!
コーヒーをお願いいたします。今日のコーヒー豆のことを教えてください。
大体いつもセブンイレブンのコーヒーを飲んでいて、豆は挽いてあるものを買っていますね。
セブンイレブンは多分2種類あって、オリジナルブレンドとモカブレンド。両方とも飲みましたがオリジナルの方が好みだったので、大体オリジナルブレンドを選んでいます。
ーいつもいれるのは1杯分ですか?
1杯分ですね。
ーちゃんとスケールを使って重さを測っているんですね。
はい。豆は13gで、お湯も300g測っています。重さだけは測っていますが、温度とか時間は測っていません。
ドリッパーは結構前からずっと使っているものですが、本当は陶器が好きだから陶器のものが欲しいなと思っています。2-3人分いれられるようなカップとセットになってるものが良いなと思いながらなかなか買えていないですね。「いいな」と思っても売り切れちゃうとかで。なかなか気に入ったものに出会えないから基本的に今はこれでやっている感じです。
ーカップは作家さんの作品ですか?
はい。京都の佐野元春さんという方のです。
ーその作家さんはどのように知ったんですか?
自分はCreemaっていうサイト※1で作品を販売しているんです。佐野さんが当初creemaに作品を出品したことがあったんですよ。写真とかも綺麗で、すぐ気になって。その後に「森、道、市場」※2で一緒に出店してたから作品を買ったんです。うちに今一番多いの佐野元春さんじゃないかな。結婚式の引き出物も佐野元春さんにお願いしました。
※1:Creema(クリーマ):主にハンドメイド作品を取り扱うCtoC販売サイト。
※2:森、道、市場:愛知県で行われるマーケットを主体としたフェスティバルイベント。
ー好きな作家さんがいるのって良いですね。素敵な陶器がたくさんあります
ーコーヒーの味はいつも安定していますか?
味はそんなに安定してないです。逆に言うとそれを楽しんでいます。パスタの茹で加減みたいな感じで。パスタって作る時に茹で加減で違いが出たりするじゃないですか。コーヒーも、同じ豆を使って出る違いを楽しんでますね。
ーそういう些細な違いを楽しめることって毎日同じことを続けているからこそ、という感じがします。今日はどんな味でしょうか?
ちょっと苦めですね。
ー珈琲屋さんでは豆は買わないんですか?いろいろとこだわりもありそうなのにどうしてセブンイレブンなんでしょう?
基本的にはコーヒーを結構たくさん飲むんです。1日4,5杯くらい。
ーつまりこれを5回やるってことですか?
そうです。
ーすごくマメですね!
だからすぐ買いに行けて、常備できるっていうのが大事で。それにそれだけ飲むから値段も気にしていて。セブンイレブンのコーヒーは250gで400円くらいなんですよね。
ー安いです。
イベントで買ったりとか、この間は北海道の人とイベントで知り合ったからそこから取り寄せたりとか。本当に美味しいコーヒーは外で飲めばいいかなって思っていますね。
ーなるほど、外と家のコーヒーを完全に住み分けているってことですね。
純粋にコーヒーを飲みに行くって感じはなかなかないですけどね。カフェ目的というか、休憩とか、なにかをしに行くのはあそこがいいな、みたいな感じで行きます。
ー場所とか時間を楽しむためのものがお店ってことですね。
「人を楽しませたい」という気持ちへの気付きがあった頃、
タナカさんに影響を与えたものもの
ーいつからpicnicをやってますか?
7年くらい経つかな。ホリエモンさんの本と手紙舎がきっかけで会社をやめてからだから……。
ーホリエモンさんと手紙舎っていうミスマッチ……!笑
ー堀江さんの本というのは?
『ゼロ』という本です。
ーどのような影響を受けましたか?
「何もないゼロの自分に、小さな1を足していく」ということが書かれていて、その時の自分は、バンジージャンプの台には立っているけど、飛び込めずに、その台の上で飛ぼうか、止めようかを迷っていたので、その本に勇気をもらい、会社をやめて、ゼロスタートを切りました。
ー勇気のいることですよね。では手紙舎にはどのような影響を受けたんですか?
当時、近所だったからっていうのをきっかけに手紙舎主宰の「もみじ市」※3でボランティアをやっていたんです。その時は「作家もの」とか全然わからないから「作家さんっていう存在がいるんだ」みたいな感じで。「自分で作った物を売っている」っていう人に会ったことがなかったし、周りにもいなかったから、そういう選択肢があるということすら知らなかったんですよ。でも行ってみたらそういう人がたくさんいて。しかもあのイベント自体がとても良い。みんな楽しそう。お客さんも、出店している人も、自分もボランティアやってて楽しかった。
それにこういうのはお金のシステム的にもわかりやすかったので、自分の中でどうすればいいか、イメージしやすかったんです
※3もみじ市:手紙舎主宰で、作り手が集まり販売などが行われるマーケットイベント。
ーわかりやすいというのは、作ったものがあって、それをお金と交換して、というシステムのことですか?
そうそう。小学生でもわかりそうなビジネスですよね。
ー当時の仕事でそういうのが見えにくかったのがあったんですか?
自分は当時勤めている会社が面白くなくて、悶々としながらボランティアスタッフやっていたんです。その中で自分をいろいろ因数分解して辿っていくと、人を喜ばせたり楽しませたりすることをしたいっていうのがあるのに気付きました。それを今の仕事だと出来てる感じが確実になくて、じゃあ辞めようかなって思いました。
「人を楽しませる」っていうことがどうやったらできるかなみたいな感じのことを考えたときに思いついたんですよ。
ー思いついたっていうのは何をですか?
人を楽しませたり喜ばせる時に、どうやったらこの感情になるかっていうことを考えると、自分は「繋がった時」にこの感情が生まれるもんだなと思ったんです。だからpicnicは、「繋ぐ」っていうのをキーワードにしています。
例えば面白い映画を見たときに面白いっていう感情が生まれたのは、映画と繋がれたから。
僕と友人が今日飲み会やって楽しかったねってなったのも、その人と自分が繋がったから。もちろんマイナスの感情になる可能性もあるんだけどね……。でもそれに気づいた時に、繋ぐことをやろうって思ったんです。だから基本的に商品も、お客さんと繋がるための道具というところがあります。
今はもうやめちゃったけど昔は「イベント情報を紹介する」とかやってました。
ーあれ見ていました。すごかったですよね。毎週末のイベントをオンラインで紹介していて。根気強いなぁと思っていました。
自分自身がイベントとか喜ばせるものを主宰してやるのではなく、誰かと誰かを繋げられるだろうと思ってやっていました。他には「繋ぐ場所を作る」っていうリアルなイベントをpicnicでやったりとかもしましたね。
そういうのをやりたいと思った時に、基本的にどこかの会社を探すか、自分でやるかしかなかったんですが、そういう会社は探してもなさそうだった。それなら自分でやってみようと。ダメだとしても経歴にはなるし、今の自分よりは良くなるんじゃないかなと思って会社を辞めちゃって。そこから商品作り出した感じですね。
ー勢いで辞めたように思っていましたが、結構考えて辞めてるんですね。
そこまではね(笑)。お金周りのことは全くでしたね。商品作り出したのは会社を辞めてからだから。
ーまずはコンセプトについての思いつきがあって、ということですね。
そう、思いつきがあって辞めて、そこからビジネスモデルというかお金のシビアなことをやったんです。だからこの部分は今もうまくいってる気はしてないんですけどね。
ーそれはすごいですね。「これはいける!」「それしかない!」みたいな感じだったんですか?
「いける!」とは思ってないんですが、「やってみたい!」って感じでした。
ーおいくつの時ですか?
32かな。
ー「物を作って売ろう」というのは決めてたんですか?
手紙舎のイベントボランティアで見てきたものがあったから、物を作って誰かと繋がろうっていうのは基本にあって。でも何を作ろうっていうのはありませんでした。
今のデザインになっているのは、元々会社員のときに年賀状をデザインして作ってて、あのテイストで作ったときに、好みが合う人たちからの評判が良かったからなんですよ。
ーずっとあのテイスト続けてるのすごいですよね。
どうなんだろう。自分ではテイスト変えたいなって思う時があります。
ー出したことあるんですか?
あります。コンセプトが「日常に彩りを」なので鮮やかな物ではあるんですが、今みたいな「風景」じゃないものもやってみたことがあって、いまいちなんですよね。ブレるっていうのもあるし。
ーブランドがブレるのはありますよね。
心の中ではめちゃめちゃブレてますよ。笑
ーそれを聞いて安心しました。笑 みな迷いながら進んでいるんですね。
「picnic行ってきます」って楽しそう
picnicとともに今後のタナカさんがやりたいこと
ーところでpicnicという名前の由来はなんですか?
人を楽しませたい喜ばせたいっていうのがあったから、名前からして「楽しそう」っていうのが良かったんです。それと覚えてもらいやすい名前ってことで既存の名前使おうっていうのがありました。まぁ「遊園地」とか「プール」とかでも良いし、そういうのはいろいろあったんですけど、「picnic」って言葉がひとり歩きしたときにどれだけ発展していくかっていうことを考えましたね。例えばpicnicが会社になって取引先の会社員の方がでうちに打ち合わせくるときに行動表に「picnic」って書いたら「あいつpicnic行ってるよ」って話になりますよね。そこから例えば「じゃあ今度picnicやろう」とかなったらすごい幸せじゃんと思って。
それと、自分が会社ができて家から出ていく時に「仕事行ってきます」じゃなくて「picnic行ってきます」って言ってたらすごい楽しそうだなって思ってつけました。
ーpicnicで一番大変だったことってなんですか?
一番初めは大変だったかも。商品を作って、イベント出店して、その時一個も売れなかったんです。「もう終わった」と思った。その時が一番キツかったですね。
そこからしばらく結構売れてなかったんですよ。ポストカードがやっと売れた時「良いんですか?」って聞いちゃうくらいに。
ー続けられたのがすごいですね。気持ち的にも。
商品ができちゃってるから売るしかないっていうのと、半年でやめたら転職活動もできないっていうのもありましたね。
だから今でも商品出す時「売れる」とは思ってないです。
ー田中さんの謙虚な姿勢はそのような経験から来ているのかもしれませんね。
ーpicnicをやっていてワクワクしたことってなんですか?
新しいことやろうと思っている時かな。服作りとか。
ー服をやろうと思ったのはいつなんですか?
3年くらい前からシャツを作ってみたいっていうのはあって、ずっと手を出せなかったんだけど、コロナになって、人生何が起きるか分からないのを痛感して、やりたいと思ったことは、ひとつでも実現させようと思い、シャツ作りも、動きはじめました。
最初に妄想していた時より今はそんなにワクワクしてなくて、「どうしよう」みたいな感じがあるけどね(笑)。
ーでもきっとまたこれ買ってくれた方がいて、喜んでくれたらまた上がりますよね。
そうですね。
妄想が一番楽しいですよね。今は中古マンション買ってリノベーションしてそこに住もうとしてるんです。奥さんが設計士なので、それを一個作品にして、家だけじゃなくお店を立ち上げるお手伝いをするとかもやりたいなって。そこができたらコロッケ屋やりたいなとか、服のブランドでお店持ちたいなとか思ったりもしていますね。
ー面白そう。体ひとつじゃ足りないですね。
ー人を雇うことは考えるんですか?会社にするとか。
事業内容が増えない限り、基本的には誰も雇わない方法で考えています。
例えば今作品を販売していて、この事業に人を雇うとつまらない作業しかないんですよ。自分は作った本人で届けてる本人だから楽しいですが、やる人はめちゃめちゃつまんない。
ただ住所を貼るとか問い合わせを受けるとか。それは面白くないから、自分でできて稼げるくらいで、そんな大きくなくていいなと思うんです。もし大きくするとしても別のことをやってる人と一緒に違うことをやる時かなって。
ー「面白くない」というのはその人にとってってことですか?
そう、その人にとって。
それに人を雇うとお金稼がなきゃいけなくなるっていうことが面白くなくなりそうな感じがするんです。今だったら一人分稼げばどうにかなるけど、人を雇うと「売らなくちゃいけない」っていう感覚になりそうな気がするんです。そうするとまず作る時にもお金ありきになっちゃって面白くなくなってくるのかなって。
行動経済学でもそういうのがあるんですよ。アンダーマイニングっていうんですが、塀に落書きをする子供に、落書きをやめさせるために、「落書きしてくれてありがとう」ってお小遣いをあげるんです。それを続けていってある時突然お金を渡さなくなると、今まで少年たちは落書きが面白くてやってたはずなのに、途中から動機がお金にすり替わってしまっているので落書きを止めるという。
元々は自分が面白いと思ってやっていたのに、お金が目的になってくると、お金の方で最初に考えるようになっちゃうと思うんです。そうすると人間的に面白くなくなっちゃうなと思って。だから自分は固定費とかは排除できるだけ排除して経費削減する方法でやっています。
ーたくさん欲しいものがあるってわけではないんですか?
たくさん欲しいという感覚は、あまりないです。
このテーブルを買うのも2年かかりました。探して見つけて、悩んでお金を貯めて。基本的には一生使おうと思っています。
「これでいい」っていう物と「これがいい」っていうものがあって。「これでいい」っていうものはなるべくやめて、「これがいい」っていうのを揃えて行こうかなと思っています。
ーそれは今だんだん削がれて行っていますか?
日用品とかはどうしても使わなくちゃいけないやつは「これでいい」というものを買っていますが、それでも少しずつ、好きな物を増やして行こうってやっていますね。日常の中に、ときめくものが多い方が、幸せだと思っているので。
ーものをあんまり持ちたくないんですか?
部屋が広いわけでもないので、あまり持たないようにしています。コーヒーミルを買わないのとか、ケトルを一体型にしてるのもそういう理由があります。
ーなるほど!そうだったんですね。
フリーランスで仕事をしている人と話すことは少なくないですが、タナカさんはその人たちとは少し違うスタイルを持っているなぁということを感じます。「人が喜ぶことが好き」とは言葉にするとよく聞く話の気もしますが、彼の態度にはそれが本当にそうなんだなと思う優しさがいつもあり、利他的である部分を尊敬できるといつも思います。自分が雇用する場合に、その人が「楽しい」かどうかを考えるというのは、フリーや経営をやる人にとっては珍しいことのような気がします。
周りのことをきちんと優しく見ながら、期待に添えつつやりたいことをやるというのは実際にはそう簡単ではないと思います。今後どのようにしてタナカさんがpicnicや他のことをやっていくのか、楽しみです。
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