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[路端のブランチ]vol.22 立呑中華のススメ

Column

外食で「困ったら中華」、たぶん一生こうだ。インターン先で上司に昼飯を奢られるときも近くの中華、爺ちゃんがうちにくるときも中華、飲み会のシメも中華。

単純に店の数が多いからすぐ見つかるし、値段も安いし、何より味もハズレがない。安い、早い、旨い、つまり間違いないッ!

さて、東京都内あちらこちらに出没している私でも滅多に行かない武蔵小山。基本的に昔からの住宅街が連なる東急目黒線沿いにある、ローカルエリアだ。

友人Kの誕生日をやるというんだけど、なぜか指定されたんだ。まさかの武蔵小山。なんでだよ、おい。

同じく都内あちこちを行き倒す、グーグルマップが旗立て過ぎでキモいことになっているタイプ、僕らのリアル井之頭五郎こと友人Yにも、数少ない未開のエリアだからだと。そう、僕らのファイナルフロンティア、それが武蔵小山。恐るべし。

さてさて、意気揚々とみんなを従えたYが連れて行く先は一見ありがちな名前の中華屋。まさに知らない街でも「困ったら中華」は安定か。

不敵な笑みを浮かべたYの表情がやけに不気味だけど、みんなで入ったら、なんてこと。椅子がないじゃあありませんか。え?どういうこと?

正確にいうとよく見たら椅子はある。ただ、テーブルを基準にしたら低すぎる。というか、テーブルが高過ぎる。これは立って丁度いいくらいだ。まさに上野や神田の立呑屋にあるそれとまるっきし一緒というわけ。

ようやくここで、Yの不敵な笑みの正体がわかる。ここは、世にも珍しい、立呑の町中華だ!

最初こそ、そのハイブリッドにとまどうけれど、徐々に気づく。ここは楽園だ。その気になれば座ればいいし、混んできたら肩を寄せ合うだけでいい。次から次へと立呑屋サイズのアテが来て、それがすべて私たちのスタンダード、中華ということ。値段だって立呑基準、ほとんどが3桁でワンコイン以下。300円台だって山ほどあるの。

2軒目なら、ここで野口英世を2人嫁に出すのもなかなか大変だ。

みんな俄に活気づき、次から次へと可愛らしい皿に乗って、定番中華がテーブルの上に滑り込む。軽快なビートを刻むかのような歯切れのいいおばちゃんの客裁きはお見事ッ!

料理の味だって、ぬかりない。餃子はモチモチでジューシー、韮玉は高級ホテルのスクランブルエッグみたいにふわっふわ、蒸鶏はぷりっぷり。決して奇を衒う味ではなく、定番の旨さを全振りしたイデア追求型。

立呑と中華、間違いない2つのハイブリッドは、気がついたらそのトリコ。知らない街にる、紛う事なき安心感は、何物にも代えがたい。

「また来ます!」

身体も心もあったまり、満面の笑みで出る頃、終電まであと3分!一同、冷たい街へ駆け出した。

日曜日、時計を外す。
 そろそろ昼飯を食っておこうとか、もう帰ろう、とか考えることすら億劫だ。あまりに遅刻癖が治らないから、仕方なく間に合わせのチープカシオを平日だけつけるけれど、基本的には時計を見られない。類は友を呼ぶというが、周りもそんな輩が不思議に多い。
 そういう奴らと遊んだり、野暮用を済ませたりすると、自ずと昼飯はグダラグダリとしてしまう。開店前に並ばなきゃいけない飯屋に休みの日を使ってわざわざ行くなんて、僕らの頭には浮かばない。
 時間を気にせず、その時いた場所でサクッと食うメシが一番だ。   iv
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