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[路端のブランチ]vol.23 下町、路地裏のメキシコ屋台

Column

メキシコとタコス。みんなこの2つは結びつくように思う。

ただ、本当にメキシコ人がやっている、現地の味を日本で食べるとなると、難しい。本格派レストランでメキシコ人シェフのお店はまだあるだろうけど、「ストリートフード」としてのタコス、ブリトーとなると、いよいよ思い浮かばない。用事があって出かけたら、必ず外食をしている私だけど、見たことがなかった。

東京のヒガシ側、隅田川沿い、どの鉄道駅からも20分以上歩く陸の孤島みたいな場所に、偶然見つけるまでは。

革靴のガレージセールを製靴工場でやると聞いて来たんだ。初めてくる、おそらくもう二度とこない場所へ。オープンの朝10時についたら既に長蛇の列!待って、揉まれて、めぼしいものを買って出てきたんだけど、何が困るって、飯屋がない。他に行きたい場所もないけど、移動するには他の場所も遠い。

ふと目に入ったのは、通り沿いの空き地に止まった、オンボロのフードトラック。とうに寿命を迎えていそうな発電機が重低音をかましながら、終わることのない断末魔をあげている。

「オイシイヨ~!オンリー500エン、ストリートフードネ!」

陽気な声の主は外からは見えないけれど、その一角だけ、鄙びた下町の灰色な景色で浮いている。色使いといい、フードトラックの唐突さといい、行きあたりばったり感といい、完全に中南米のそれだ。そして、タコス500円、ブリトー500円…値段も現地仕様とまではいかないまでも、かなりそれに近い。

人の良さそうなマスターが出てきて、迎えいれてくれたと思ったら、止まりかけていた発電機を豪快にグイッと引っ張る。ノン・プロブレッ!

中には大量の米と豆、そして牛肉。鉄板焼きの素朴な味にサルサソースでアクセントを加えて。 

タ○ベルやその他諸々のファストフードにあるタコスの、ジャンクで装飾過多な味とは似ても似つかぬ、どこか懐かしい味。町中華のオムライスとか、喫茶店のホットドッグとか、ああいう昭和の味に通じるものがある。

サイドメニューがなくても充分な特大ボリュームのブリトーを頰張って、シャバシャバのメキシコビールで流し込めば、腹十分目、オーバー!

フードトラック1台ですら随分窮屈そうな空き地だけど、夜は飲み放題メニューもあって野外パーティーできるらしい。値段も変わらずストリート価格…。

見知らぬ街で腹が減って、地球の裏側からやってきた屋台飯を食った日。午後の予定は何も決まっていないけれど、腹が満たされていれば、何かはできるよね、きっと。

陽気なメキシカンのマスターを見ていると、そんな気すらしてくるんだ。

日曜日、時計を外す。
 そろそろ昼飯を食っておこうとか、もう帰ろう、とか考えることすら億劫だ。あまりに遅刻癖が治らないから、仕方なく間に合わせのチープカシオを平日だけつけるけれど、基本的には時計を見られない。類は友を呼ぶというが、周りもそんな輩が不思議に多い。

 そういう奴らと遊んだり、野暮用を済ませたりすると、自ずと昼飯はグダラグダリとしてしまう。開店前に並ばなきゃいけない飯屋に休みの日を使ってわざわざ行くなんて、僕らの頭には浮かばない。
 時間を気にせず、その時いた場所でサクッと食うメシが一番だ。   iv
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