[路端のブランチ]vol27.ここだけは行きたい、敢えてのパスタランチ

Column

たぶん、料理はする方だ。というか、それなりにできる方だ。

他人が作るメシにあれこれ思うんだから、自分が作るメシにだって厳しい。手を抜いたら自分の舌が許さないし、パッと作る昼飯だって、たぶんそれなりのものを作る。

だから、自分で作れそうなものをあまり外食で行きたくない。正直なところ。

会社のそばにある対してうまくもないパスタ屋とか、乾麺なら自分で作る方が旨いし、居酒屋のサービスランチも家の生姜焼きより随分ショボいなあとか感じてしまう。死ぬまでにありつけるメシには限りがあるし、何より微々たるものでも身銭を切る訳だから、納得したものしか食べたくない。

さて、家のそばはオフィス街で、ランチをやっている店はきりがないのだけど、上記の理由からさほど行きたい店はない。

ただ、在宅ワークで疲れた昼休み、自分のためとはいえ調理が億劫な日もある。

ある日の昼、特に下調べもせずに周りを徘徊していたら、家から少し離れた路地裏にビストロを見つけた。一応、レンガに小さな窓で、看板もダサくなくて。あまり混んでいなそうだ。

入口の看板には「ミートソーススパゲッティランチ」のみ!不思議な確信があった。

このパスタは食べても後悔しないぞ。うん。

飲食店が腐るほどある中で、ランチメニューを一つだけ、なんて随分と強気じゃないか。それに、他所にも間違いなくある、定番中の定番。よほどの自信があるんだろう、きっと。

重たいドアを押して、いざ中へ。なるほど、中はなかなか趣味がいい。武骨な木のテーブル、4人がけが2つ。カウンター席3つ。

余計な飾りはないけれど、最低限置かれたものがすべて感じがいい。エスプレッソの香りがして、食後にコーヒーがつけられる。BGMは覚えていない。それはたぶん、違和感がなかったから。最高に素敵なBGMで記憶に残るのと同じくらい、完璧だ。

そして、本命のパスタ。これが天晴!まさに、自宅で真似できないやつが来た。

濃厚でコクが凝縮されたボロネーゼソースは、不思議とくどさを感じず、何口食べても飽きる気配がない。

じっくり煮込まれて素材の風味から尖った要素が中和した、マイルドな味わいはさながらシチューのよう。これこそが素人の付け焼刃では追いつけない領域だ。主役のひき肉です単体の肉肉しい味わいは主張が最小限で、ホロリとしたコクに全振りしてパスタソースの一部に見事ハマっている。

ランチをパスタにするとき、家で作るにせよ、店で食べるにせよ、手早くお腹を満たしたいとき、時間がないときに食べることが多い。しかし、相当な時間を要して作り上げられたと思わしきこの一皿は、むしろじっくり味わいたい。

こういう外食なら、してよかったなあ…って心の底から思えるのよ。

日曜日、時計を外す。
 そろそろ昼飯を食っておこうとか、もう帰ろう、とか考えることすら億劫だ。あまりに遅刻癖が治らないから、仕方なく間に合わせのチープカシオを平日だけつけるけれど、基本的には時計を見られない。類は友を呼ぶというが、周りもそんな輩が不思議に多い。

 そういう奴らと遊んだり、野暮用を済ませたりすると、自ずと昼飯はグダラグダリとしてしまう。開店前に並ばなきゃいけない飯屋に休みの日を使ってわざわざ行くなんて、僕らの頭には浮かばない。
 時間を気にせず、その時いた場所でサクッと食うメシが一番だ。   ivy