ivy

[路端のブランチ]vol.30 食卓の名脇役、ポテトサラダについて。

Column

永遠の名脇役。

映画界だとベテランになるにつれ、逆に主役としてスポットが当たることもあるけれど、私達の食卓においてそれがメインに出ることはない。

変わらずに愛され、且つ変わる必要がない完成度。これが成立しているから、そもそもメインの座には見向きもしないんだ。

決して出しゃばらず、それでいて長きに渡りその居場所を確保する…ポテトサラダだ。家族の夕食、給食、コンビニ弁当、居酒屋、バイトの賄い、彼女の手料理…この前シチュエーションで皆勤のメニューなんて他にあるか。

さて、そんなポテトサラダがメインで出てきたんだ。この前、たまたま立ち寄った定食屋で。

亀戸にある小さなギャラリーで、私のZINEを置いていただいている。仕事終わりの夕方6時、その納品と挨拶に行った日のこと。駅とギャラリーはやたらに遠くて、歩くといかんせん腹が減る。

帰り道、駅前まで歩く体力がない。空腹に耐えかねた。見回しても駅から遠くて飯屋がない。よし、決めた!今から歩いて最初にある飯屋に入ろう、って。

行き当たったのは、なんとも鄙びた雰囲気の定食屋。風が吹こうが嵐がこようが微動だにしなそうな佇まいだ。看板には「洋食中華」。悩む余地はない。決めたんだから。ここで夕飯だ。

おすすめメニューは…「名物 ポテサラ豚カツ」。目を疑った。4回ばかり同じ行を読み返す。そんなのありかよ、って。

ポテトサラダってやつは、揚げ物にもよくついてくる。大抵はキャベツの更に補佐役みたいな、脇の脇。それがいきなりメインディッシュに昇格だって。しかも、洋食系のおかずで圧倒的主役を張り続けてきた豚カツの相棒として、なんて。

登場したポテサラ豚カツは、はち切れんばかりに膨らんでいる。ロース肉の隙間にぎっしりとポテトサラダが詰められて、かなりの重量だ。持ち上げるのも、箸で切るのもほぼ不可能。仕方なく、がぶりと齧り付く。

これほど奇妙な組み合わせにも関わらず、味は期待を裏切らない。ほんのり甘い、コクのあるマヨネーズがサクサクのカツから出てきたら嫌な人間いないでしょ。

期待を裏切らない定番は、見方を変えれば予想通りの味。衝撃はなんやかんや薄い。どれだけ型破りでもモダンでも、ポテトサラダってわかるんだから。

ただ、そうでなきゃ困るのよ、あなたは。ポテトサラダ。ずっと脇役、万が一主役になっても、本質は変わらない。変わらないでいてくれて、ありがとう。

たまたま入った定食屋の、名物メニュー。名脇役の確固たる存在感は、そこでも健在だった。

日曜日、時計を外す。
 そろそろ昼飯を食っておこうとか、もう帰ろう、とか考えることすら億劫だ。あまりに遅刻癖が治らないから、仕方なく間に合わせのチープカシオを平日だけつけるけれど、基本的には時計を見られない。類は友を呼ぶというが、周りもそんな輩が不思議に多い。

 そういう奴らと遊んだり、野暮用を済ませたりすると、自ずと昼飯はグダラグダリとしてしまう。開店前に並ばなきゃいけない飯屋に休みの日を使ってわざわざ行くなんて、僕らの頭には浮かばない。
 時間を気にせず、その時いた場所でサクッと食うメシが一番だ。
   ivy