[つまみ読む生活]vol.21 パンを焦がす
「おはよう」のあなたも、「こんばんは」なあなたも、こんにちは。第21話です。
最近は暖かくて、お散歩日和ですね。今まで、「天気が良い=花粉すごい」だったので、春の晴天を歓迎できない人生でしたが、今年はある発見により花粉大丈夫な身体をゲットしました。
それは朝4時のタイミングで薬を飲むとめっちゃ効く……!ということ。
真夜中、2時間に1度のペースで私をトイレに起こす老犬のおかげで気づけた。ありがとうマイラブ頻尿犬。寝不足という対価を払って花粉に脅かされない身体を手に入れた、月曜日の10時です。
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さて、私、パンを焦がすようになりました。
「パンを焦がした」なんて報告することでも、まして記事にするようなことではないと思うでしょう。
いいえ、そんなことありません。森羅万象全てのことに意味があるのです。薬を飲む時間をずらしただけで日常は変わるのです。
私がパンを焦がすようになったこと、それが示す何かを解き明かしていこうではありませんか。
私はせっかちで、キッチンタイマーは鳴る前に止めます。
キッチンタイマーを吠えさせない。毎度2:54で止まった文字盤を3:00に設定し直すという二度手間があろうとも。
冷凍のグラタンは、どこかしらが解凍されていなくて、すごく熱い部分を混ぜることでグラタンをグラタンで温めたりする。パンなんて焦がした事がない。
いつも「もっと焼いたら絶対美味しいのに」と思いながら食べている。そんな人間がパンを焦がすようになった。どういうことか。答えは一つ。
「待つ」が出来るようになった。
待つが出来るようになって間もないので、待ち過ぎて焦がす。
「待つ」ことが出来るようになったと実感したのはパンを焦がし始める少し前からで、会話に対する考え方の変化でした。
「ラジオDJにでもなれば(嫌味)」と不特定多数の人間から言われるほどのマシンガントーク炸裂女である私は、その短所に悩まされていた。聞き上手だと思っていた友達が実は聞き上手なんかではなく私がひっきりなしに話すから、口を挟むタイミングがなく黙っていることしかできないだけだったと分かった時、申し訳なくてかなり凹んだ。
友達の言葉を奪ってしまう自分の口と頭に、嫌気がさして何度も風呂で後悔していました。でも、分かっていても簡単に直せるものではありませんでした。
学生の時、ウィトゲンシュタインの「語り得ぬものについては沈黙しなければならない」という名言を知った時から、私は言語について考え始め、迷子になりました。
そして言葉の限界に挑み続けていました。分からないことや回答に困る事があれば、私は沈黙するんじゃなくて「分かりません」「それは回答に困ります。〇〇ということですか?」みたいに、その状況を言語化してきました。それが誠意だと思っていました。(めんどくさ!!!)
何か聞いても黙っていたり、無口でミステリアスな人を見ると、脳内の言語化を怠っているんだと思ってムカついたりしていました。
一人一人が持つスピード感は違うことは知っていたはずなのに、本当には分かっていなかった。
だけど、あまりにも自分の速度と違う人間と生活をした時に、はじめてちゃんと分ったのでした。「知っている」と、「分かる」は全然違う。
言葉を重ねれば重ねるほど、物事は明確になるわけではないし、
黙っている事は隠しているとか嘘をついている事と同じではない。
人より言葉を使う人間こそ、言葉を使わない方法を知らないといけない。
そうして私はやっと、掴めない、目に見えない、聞こえない、「行間」の必要性を心から感じて、手に入れたのでした。不慣れながらもこうやって、精神的な大人の階段を登っている。
だから、私はパンを焦がすようになったのでした。
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