こや

[つまみ読む生活]vol.35 もう一つの故郷へ①

Column


「おはよう」のあなたも、「こんばんは」なあなたも、こんにちは。第35話です。今日は12月30日。2022年はあっという間なようで、そうでもなかったかも。前回の話で「人生のシーズン2が始まる予感がする」と言って終わってから、やっと続きを書ける余裕が生まれたので、年末の空気を全身に感じながら、最近の私の「動き」と過去の私の「動き」を振り返りつつお話ししていこうと思います。

********************

動き始めようと思った引きこもりの私がまず何をしたかというと、有給と宿を取り、新幹線に乗りました。向かった先は広島県尾道市。そして私にとっての第2の故郷です。2年ぶりでした。

私が初めて尾道を訪れたのは2017年。話は過去に遡ります。ハタチの私はバイタリティと好奇心の塊で、今の生活とは真逆の、それはそれは活発な女の子でした。その時期に、母と中国地方を旅行した時にたまたま数時間立ち寄ったのが尾道で、何となく入ったゲストハウス兼カフェで大きな出会いがありました。

そのゲストハウスは、尾道の中心人物である人が運営していて、会話しているうちに意気投合。なんて面白い街なんだろうと私は感動して、「半年後、夏休みにここで働かせてください」と約束をしました。そして半年後、単身で尾道に2週間滞在することに。知ってる人も多いと思うけど、尾道はちょっとした観光地。瀬戸内海を望み、映画と猫、坂、古民家が並ぶノスタルジックな街です。私が働くことになったゲストハウスには観光客や地元の人々が集まるハブみたいな機能があり、出会った人の半数以上は移住者でした。


空き家が多く、あまりお金をかけずとも一軒家を手に入れることがきることもあり、本屋や古着屋、ラーメン屋など個人でお店を持っていたり、フリーランスの人が多かったり、移住者や学生がシェアハウスで新しいコミュニティを作っていたりと、皆が今の生活に満足しているような、自由で楽しそうな印象でした。いい意味で日本っぽさがなく、異国にいるような不思議な空気が流れていました。就活のことや将来の働き方について不安を感じていた当時の私にとって、尾道という町はとても魅力的に見えました。

滞在していた2週間、私はゲストハウスで働きながら住む場所とご飯を提供してもらい、不定期で開催されるホームパーティに参加したり、借りた自転車で街をめぐったり車を出してもらって島へ行きました。海を見ながらパンを食べ、子供達と遊び、猫と触れ合い、多くの人と語り、酔っ払いながら拙い英語で外国人と会話したりしながら過ごしました。滞在中、暮らす場所や一緒にいる人、生き方そのものに対する考え方が、一気に広がったような感覚がありました。

それともう一つ。私は神奈川の生まれで祖父母も近くに住んでいて、少し離れた親戚との交流も深くなかったから「帰省」とか「故郷」という言葉とは無縁で、自分が生きている街とは別の離れた所に、愛すべき人や場所があることに対して憧れを抱いていました。だから、尾道に来て、そんな場所が自分にできたことが本当に嬉しかった。

それから、大学の課題に行き詰まった時や人間関係で悩んだ時など、「逃げたいな」と思ったタイミングで尾道へ遊びに行くようになりました。新幹線で5時間、車窓からぼーっと変わりゆく景色を見ながら約700km。とても近い距離とは言えないその旅路と、独自の空気が流れる土地での滞在が、活発さと心の脆さを併せ持つ私を芯から支えるものとなりました。

しかし、この3年で結婚や離婚を経験したりコロナが大流行したりして、行きたくても行けない状況が続きました。そして今、心も体も回復して「もう行ってもいいかな」というタイミングがやっと来て、失ってしまった向上心や自尊心を取り戻すために「人生のシーズン2」を始める第一弾として、尾道へ向かったのでした。

かなり端折ったのに、予想以上に長くなってしまったので、次の話に続けることにします。今回はこの辺で。

********************

「つまみ読む生活」
食べるように読み、吐くように書きます。ここ3年、1年おきに人生がガラッと変わってる。
こや