こや

[つまみ読む生活]vol.36 もう一つの故郷へ②

Column

「おはよう」のあなたも、「こんばんは」なあなたも、こんにちは。第36話です。今日は1月2日。あけましておめでとうございます。年末年始の暇を利用して、モリモリ文字を書いています。特別なことは何もないのだけど、頭がスッキリしていてよく眠れる。なかなか良いスタートがきれた2023年です。

********************

さて、前回に引き続いて、尾道の話と去年の出来事を振り返ります。

2年ぶりの尾道でまず向かったのは、5年前に同じゲストハウスで働いた友人がはじめた朝ご飯屋さん。お店に入るなり「おかえり〜!」と笑顔で迎えてくれてちょっと泣きそうだった。彼女のお店の看板メニューである“揚げがんも”の朝ごはん定食をいただきながら、料理したりお皿を洗ったりと、せっせと働く彼女とおしゃべりをして過ごしていると、観光客や常連客、年齢層も幅広く続々と人が入ってきて、彼女を中心に会話がゆるやかに交わり始め、“誰もが場違いではない”という空間ができていった。


第27話の「一緒にご飯を食べること」という回で、同じものを食べて体の中をおそろいにすることで、誰かと近くなっていたのだなと改めて実感しています。”という話をしたことがあるのだけど、彼女のお店で「そうそう、これのことだ、これがやりたかったんだった」と思った。都会にいると目には見えない個室空間が一人一人にあるような感じがする。大勢集まっていても、混ざる感じがないというか(それが心地よい時もあるのだけどね)。ここ2-3年間の、ずっと引きこもっていて新たな知り合いも作れなかった生活も別に嫌いじゃなかったけど、胸の中がじんじんと温まっていく久しぶりの感覚に「私はずっと寂しかったんだな」と気付かされた。


その後は、彼女のお店を拠点にしつつ(3日間で5回くらい立ち寄ったと思う)、ゲストハウスに寄ったり古着屋さんをやっている友人のところへ行ったりして、なんだかんだで会いたい人にたくさん会うことができた。尾道は個人でお店をやっている人が多いから、約束をしなくてもお店に行けば会える。これは本当に素敵なことだと思う。

2日目は、尾道から少し離れて生口島の宿を取った。チェックインしようとしたら、後ろから名前を呼ばれた。初めて上陸した島で名前を呼ばれて「???」のまま振り返ると、大学の同期がそこにいた。彼女は最近移住して、私が泊まろうとしていた宿で働いていたのだ。その偶然に私たちは盛り上がり、夜は一緒にご飯を食べながらたくさん話した。彼女とは学生時代に強い繋がりがなかったから、お互い知らないことばかりだったけど、話していくうちにお互いの輪郭がどんどんはっきりしていく感じがして、ここでも心や体をおそろいにしていく幸福度がかなり高かった。そして「また絶対ここで会おうね」と約束して、島を出た。

尾道に行ったことで、かつての自分の感覚を取り戻した感じがした。一回動くことができればあとは簡単で、帰ったあとは「これからは1ヶ月か2ヶ月に一度は短い旅に出よう!」と思い立ち、福岡の友人に会いに行ったり、長野の山奥で蛍を見たり、友達と北海道でグルメを楽しんだり、熱海の温泉に浸かったりした。そんな2022年だった。

実際、たまに旅行するくらいは特別なことではないだろうし、もともと生活に何もアクションを起こさずにいた私が“普通”のレベルになっただけなのかもしれない。短い旅から帰ってきたらいつもの生活に戻るし、考え方や見た目、交友関係が大きく変わったわけでもない。

でも、「もっと気楽に遠出する」という選択肢を増やしただけで、人生のシーズン2が始まったということになるのではないかな……と思う。特別なことをしなくても、どうしても布団から出られない日があってもOKだけど、たまにはちょっと遠くに行ってみて、何かを感じることは難しくない、行き詰まったらとりあえず移動しようと思った。私たちは動物で、より自分に合う環境を自分の足で見つけることができるのだから。

今回はこの辺で。ごちそうさま。さて、次はどこへ行こうかな。

********************

「つまみ読む生活」
食べるように読み、吐くように書きます。ここ3年、1年おきに人生がガラッと変わってる。
こや