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Interview

AO COFFEE

東急大井町線の尾山台エリア。自由が丘や二子玉川にも近い閑静な住宅街のあるエリアです。駅から歩いて2分程の距離に、ALPHA BETA COFFEE ROASTERSはあります。自由が丘にある ALPHA BETA COFFEE CLUBの2号店として2020年にオープンしました。併設された「AO COFFEE」も時を同じくしてオープン。新たな焙煎事業を担うのは佐々木碧さんです。

筆者にとっては北海道のコーヒーショップで働いていた時の先輩である佐々木さん。かねてから焙煎をしたいというお話を聞いており、この度晴れて自家焙煎のコーヒーブランドをスタートさせたと聞き、ずっとお話を聞きたかったのです。オープンしてから1年という節目を迎え、この度ようやくお話を聞くことができました。

インタビュー:Hiro Nana
写真:西野あゆみ

北海道から東京へ
焙煎に出会い、始まるまでの道のり

—まず、コーヒーの道を目指した経緯を教えてください。

僕は北海道の帯広の出身なのですが、コーヒーに一番初めに携わったのは札幌で大学生活をしていた時でした。当時コーヒーに詳しくなかったのですが、カフェブームが始まった頃でカフェに関するたくさんの書籍が出ていました。まんまとそれにハマってしまいカフェ巡りをするようになり、喫茶店でアルバイトを始めたんです。

そのまま何をするか決まらないまま大学の卒業迎えてしまったとき、知り合いの方からカフェを一緒にやらないかと誘われました。そこからカフェの立ち上げをすることになりました。それがきっかけでコーヒーそのものに興味を持ち始めたんです。

どういうメニューを展開するのか、どんなものが必要なのかなど、考えるにあたり、改めてコーヒー屋さんを回りました。

イタリアンバールのカフェを訪ねた時にラテアートを初めて見て、可愛いし面白そうだなとまずはラテアートに目が向きました。

それからカフェの運営をしながら独学でラテアートの練習してみたりもしましたが、何の知識もないまま始めたカフェは残念ながら全くうまくいかず…1年ちょっとでお店を畳むことになってしまいました。

その時にはもうエスプレッソの抽出からコーヒー全般について勉強したいなと思うようになっていて、同時に生まれてから一度も北海道を出て生活をしたことがなかったので、外の世界を知らないといけないと思い東京に行くことを決めました。

失業保険が3ヶ月もらえる間に本気で働く場所や家を探し、決まらなかったら戻ろう。そう思って東京に行きました。

東京に出てから、本に出ているようなコーヒー屋さんを巡りましたが、お店はたくさんあり、当時の自分にはどのお店で学んでいくべきなのかが分からず、知名度のあるところで働いたら勉強になるのではと考え入ったのがストリーマーコーヒーカンパニー※1でした。

※1…ラテアート世界大会覇者である澤田洋史氏によってプロデュースされたコーヒー店。

AO COFFEE 佐々木碧さん

とにかくコーヒー屋さんで働けばコーヒーに関する知識を全て得られるのでは思っていたのですが、コーヒーと一言で言っても色々あるのだなと働き始めてから知りましたね。ドリップコーヒーの提供の有無から提供する豆の種類、自家焙煎であるかそうでないかなど。ストリーマーコーヒーはラテアートにフォーカスしているお店でしたので、お店では得ることのできないコーヒーの知識をもっと勉強したいという気持ちから、セミナーに行ったり、いろんなコーヒー屋さんに飲みに行ったりしているうちに浅煎りのコーヒーと出会いました。

それまではラテアートや抽出の方法というようなコーヒーにまつわる物事や出来事が好きだったけれど、よく考えたら自分自身コーヒーを飲むことが好きなのかと言われるとそうではなかったんです。

今もですがたくさんの量は飲めないですし、そもそも深煎りのコーヒーも得意ではなかったんだとその時に気づきました。

そこで、自分が本当に好きで自信を持って人に勧められるコーヒーを突き詰めていきたいと思い、3年間働いたストリーマーコーヒーを退職しましたが、ご縁のあったALPHA BETA COFFEE CLUB(以下、ABC)で働くことになりました。

自家焙煎ではなかったのですが、全国的各地のロースターから月替わりで3店舗ピックアップしてコーヒーを取り扱っていたのでいろんなコーヒー屋さんを知ることができました。そして、段々と素材としてのコーヒー豆の姿に興味が広がり、自分で焙煎がしてみたいと思うようになりました。

お店では焙煎に関わることはできなかったので、自分で勉強してどこかで焙煎機を借りて焼いてみようと思ったところが結果的に今の事業のきっかけになりました。4,5年前からシェアロースター※2の利用を始め時間制で焙煎機を借りたりなどしていました。

去年ABCの二店舗目ができるというタイミングで自分の活動を知っていた社長から焙煎機を入れるから自分でやってみないかという話を提案していただき今に至ります。

※2…焙煎機を時間貸しするサービス。コーヒー店を開業予定の人や焙煎を学びたい人に向けたもの。

—今の会社でやりたいことが実ったのですね。

そうですね。

今の会社が自由にやらせてくれています。ここまで至るには遠回りもしてきたんですけどそれがあって今があると思っています。

ありがたいことに人にも恵まれました。特にストリーマーコーヒーで働いていた時の元同僚やお客さんはコーヒー以外のところで活躍している人も多く、今でも交流があります。

例えば、お店のロゴは元スタッフに作成してもらいましたし、コーヒーのパッケージのイラストは当時知り合ったお客さんにお願いしました。

継続的なコーヒーとの関わり
自家焙煎店から学び得たこと

実は、ABCと同時にAND COFFEE ROASTARS(以下、AND)※3で掛け持ちで働いていました。自家焙煎のお店で働きたい気持ちがあって東京に店舗がオープンした時に働いていました。当時は東京にもロースタリーができるという話があったので焙煎に直結できる最後のチャンスと思ってのことでした。

掛け持ちを始める前に働きたいということをABCの社長に相談した時、

「ABCのコーヒーのレシピ作りを任されクオリティチェックをする立場であるのに他の店で働く必要はあるのか、責任を持つべきではないのか」と問いただされました。

しかし、自家焙煎の店で働き、焙煎はもちろんコーヒーが生産者から消費者に届く過程を身近に感じながら、コーヒーに関わる様々なことを学び直したいという思いが強かったので、半ば自分の気持ちを押し通す形で掛け持ちを許してもらいました。

結果的に自分の我を通してしまった部分もありますが、こうして焙煎に携わることができた今、ANDでの経験はとても生きています。

※3…熊本県熊本市にあるスペシャルティコーヒー専門店。

—ANDさんでの経験はどのような影響がありましたか?

より強く、自分で焙煎してみたいと思うようになりました。

ABCではいろんな土地のコーヒー屋さんを知り、お勧めできる面白さはあったけれどコーヒーのことがわかってきたタイミングでラインナップ変わってしまいました。

ANDでは自分達で豆を選び、焙煎していてより素材が身近に感じられる。それが新鮮でした。

お客さんに対し、農家さんにまつわる話やコーヒーができる背景に言及し説得力を持たせながら自分の言葉で伝えられるようになったことが嬉しかったです。

長い期間をかけ構築される農家さんとの関係性やその農家さんから毎年継続して購入し、持続的にコーヒーと関わり伝えていくということが、コーヒーって素敵だな、面白いなと思える部分だったので自分がやっていきたいことを再確認できました。

そういうことを自分の言葉で伝えたかったんだなあと思いましたね。

焙煎自体には関わることはできなかったけど、今までよりも近い距離で豆を仕入れ、焙煎している人がいるという環境に身を置けたのはとても良かったです。

—地域によって水質が違うことから、出来上がるコーヒーの味が変わってしまいますが、熊本からやってくるコーヒー豆はいかがでしたか?

九州は比較的硬度の高い水が多いと思いますが、たまたま水質が近かったのか、特に違和感なくすんなり抽出できましたね。

スペシャルティコーヒーや浅煎りのコーヒーが好きだと気づいてからいろんなお店に行きましたが、その中でもANDのコーヒーはとても好きでした。

初めて飲んだのは、熊本出身の先輩がやっているカフェで取り扱っていて飲ませてもらった時で、それがとても美味しかったんです。苦さもなく酸味も強すぎずバランスがとても良かったんです。幅広い人に美味しいと思ってもらえるコーヒーでした。

引き出す焙煎と補う焙煎
ロースターとしての責任

—もう1年が経ちましたね。

はい。2020年の10月31日にオープンしたのでもうすぐ1年半になりますね。

—どれくらいの量を焼いていますか?

月曜日にお店が定休日なので月曜に集中して焙煎しています。1週間に店頭販売とカフェで使用するもの、卸を合わせて30〜40kgくらいでしょうか。

最初はカフェでも働いていたのですが、少しずつ豆売りが増えてきてカッピング会や打ち合わせなどのこちらの業務を優先できるようになったので、今は本当に人が足りない時にだけカフェに入っています。

カフェを利用されるお客さんが多いので、お客さんがいないときに作業するように気をつけています。

—今まで独学でやられてきて、いざ事業をスタートするという時どのように焙煎の仕方を確立していきましたか?

セミナーが大きかったと思います。

中にはセミナーを受けたら焙煎機貸し出してくれるというものもあって教えてもらうこともありました。

本やネットも活用しました。日本のサイトには情報があまりないですが、海外のサイトではレシピの詳細が載っているものが結構あったので参考にしました。味を見てみないとわからないので焙煎、カッピングを繰り返しながら一つずつ試していきました。

焙煎機の操作という部分で見ると焼き方自体はとてもシンプルですが、「この味はこんなアプローチで焼くからこうなる」ということがわかるようになるまでの道のりが長かったです。今も完璧にわかるようになったとは言えず、経験を積んでいる最中ですが、段々と理解できるようになりました。

何をどう焼きたいかをどういう味にしたいのかをわかっていないと提供できないのでそれを形にするまでは大変でした。

自分の中の理想像や正解、自分のコーヒーだけだとわからなくなりますが、今の環境では様々な名のあるロースターと自分の焙煎したコーヒーが肩を並べることになり、一緒に働いている人に意見をもらえます。それは迷った時に軸を戻せる有難い存在でもあり、強みであると思っています。

—情報は集めようと思えばたくさん溢れていますが、その中から自分で実践できるものを探し、実行して自分の力にできることはとても強いと思います。

自分で勉強しないとわからないことはたくさんあると思います。

自分の言葉で自分が扱っているコーヒーを説明したいと思ったのと同じように、自分で豆を焼くことでより明確な言葉でコーヒーのことをお客さんに伝えることができると思っています。

独学で学ぶことは遠回りなのかもれないけれど、それはそれで発見して試していくという面白さがありました。

—カフェでお客さんに提供するという時間が減ったと思いますが、カフェに入って自分が焼いた豆を抽出するというときにギャップを感じることはありますか。

カフェに入っていれてみて違うなというのは下げるようにしています。

自分の焙煎の参考になったのがANDのコーヒーで、浅煎りだけどバランスが良いコーヒーというのを目指しています。

出来がいまいちだと思うものは、他のロースターのものや自分がうまく焼けたコーヒーと比べた時に精製方法や生産国に関係なくレシピをアレンジしないといれられないということに気づきました。

大体同じローストのレベルで適正に焙煎できていれば、コーヒーの挽き目にもあまり影響しない。それがずれていた場合、間口が狭い焙煎になってしまっているんです。

なるべく、いろんな抽出を試しても美味しくバランス良くはいるように仕上げたい。バリスタやお客さんの手数が狭まるような焙煎にはしたくないということを意識しています。

よく言われる話しですが、素材から抽出という流れの中で前のプロセスで起こったエラーは後のプロセスでプラスにすることはできません。

浅煎りで美味しく仕上げることができる素材を見つけてきて扱っているので

焙煎で狭めると抽出でできることが限られてしまう。

狭まった部分をどうしてもカバーしてもらうこともあるけど、なるべく素材の良い状態を焙煎に反映してその後の行程に影響のないようにしたいと思っています。

それは焙煎をする上で責任を持ってやるべきところだと思いますし、大事にしているところです。

この時世で難しさを感じたのが、コロナの影響で生豆のコンテナの到着が大幅に遅れてしまって枯れ豆※4に出会う確率がいつもより高かったことです。

届いた時点で枯れてしまっているものもありましたし、開封してから3週間後に一気に劣化してしまうということもありました。

農作物、とりわけ海外からやってくるものなので良いと思って仕入れたとしても手元に届いた時、その品質が保証されているものではないということに改めて気付かされました。ロースターはそういう難しさもある。

そこで引き出す焙煎だけでなく補う焙煎もできるようにならなければなと思いました。何かトラブルがあって元々の品質が落ちてしまった時にただ破棄するのではなく、悪い部分を補って出すことができれば少しでも無駄をなくせる。後々の行程にアレンジできる幅を残してあげることは大事なのだと思いました。

そう考えると、現在は機械が発達していて焙煎機にパソコンを繋いだら温度変化がグラフになるようになっている。昔から焙煎している方たちにはそういったものは当然なく、豆も高品質のものが常にあったわけではないですよね。ですので、補う力というのがとても高かったのだと思います。

—1年半で多くの発見があったんですね。

そうですね。自分の拠点となる場所ができ、焙煎機に毎日向き合っていると見えて来る景色が変わり、あらゆることの捉え方が変わりました。

—これからの展望や描いている将来像はありますか?

今は目の前の物事に一生懸命向き合っていこうという思いでいます。

焙煎の大会に出てみたいとか、コーヒーの農園にも足を運びたいとか、より小さなタバコ屋さんのような場所で小規模な豆販売をしたいというような細かな目標はありますが、今の環境でできることはまだまだたくさんあるので、今向き合ってくれている人たちにもっと誠実に向き合っていきたい。そのためにもっと勉強しないと、と思います。

その積み重ねが自分にとっての未来に繋がり遠い先の次の一歩になるはず。

続けていると然るべきタイミングやチャンスというものはやって来ると思うんです。引き寄せているというか。その時が来たらすぐに飛び込めるような準備をしていきたいです。

お話を聞いて、焙煎を始めるまでに長い道のりがあったことやその過程で感じられた思いを知ることができ、感慨深い気持ちになり、今同じ目線でお話ができることに嬉しく思いました。

これまでの道のりをこつこつと歩んで来られたからこそ、佐々木さんのお人柄のように優しく余韻の長いコーヒーはこの街にも根付いていくのだろうなと感じました。

AO COFFEEは始まったばかり。次はどんな一歩を踏み出すのかとても楽しみです。

AO COFFEE  https://aocoffee.stores.jp/
ALPHA BETA COFFEE ROASTERS  https://abccoffee-roasters.com/