伊藤麻衣子さん(映画宣伝・広報マン)
今年で開業9年を迎えるのは沖縄の焼き物である「やちむん」を販売する「ふくら舎」。その東京分室として自宅を管理しながら、フリーランスで映画宣伝のお仕事をされている伊藤麻衣子さんに取材しました。
インタビュー:しば田ゆき
写真:小池りか
麻衣子さんは、昨年田端のギャラリーOGU MAGで珈琲の展示をする際に「やちむん」を貸し出してくださった時からの知り合いです。
それ以来、谷根千の住まいから駒込にあるわたしの働いていた店までよく来てくださいました。
店でコーヒーを飲んで、美味しいと言って少し話して、最後にコーヒー豆を買って帰ってくれる。
小さな繋がりを紡いでいくことを大切にしているんだなぁとその行動を見て感銘を受けました。
今回そんなきっかけから、麻衣子さんの考えていることやお仕事や生活のことを、彼女のコーヒーを通して知りたいと思いインタビューしました。
麻衣子さんに取材
句読点のように生活に入り込むコーヒー
-早速ですが、今日の豆のことを教えてください。
いつものお気に入りは沖縄行った時に買ってくるTHE COFFEE STANDのなのですが、今日は近所のESPRESSO FACTORYの豆です。
-コーヒーを淹れるようになったきっかけってなんですか?
昔付き合ってた人がコーヒーが好きで、淹れ方を教えてもらったんです。当初はその人が淹れると美味しくて、私が淹れるとブレてたんだけど、それがいずれ逆転して。
それからかな。当時一生懸命いろんなところで美味しい豆を探して買っていて。だから今も、できれば珈琲豆屋でその場で焙煎されているものを買いたいと思っています。
-コーヒーを家で淹れるのって普通はあんまりやらないかなって思うんですけど。
コーヒーっていうより元々お茶が好きで。20代の頃に中国茶の教室に通ったことがあって飲むようになったの。その時すごい仕事が大変で疲れてた頃で、仕事終わって帰ると泥のように眠るような生活だった。
そういう時にお茶だけでも1杯飲んで寝るとぐっすり眠れるということに気づいたこともあって、切り替えにお茶やコーヒーを飲むことは多くなった。
-普段はどういうタイミングでコーヒー飲むんですか?
基本、朝食の後に飲むね。
コーヒーを入れてもらう
-コーヒー淹れるときに何考えていますか?
焦らずにいれるようにしてる。ある程度落ち着いていれたいなと思っているので時間がない時にはいれないな。
朝コーヒー飲むとちゃんと仕事しようっていう感じになるの。疲れた時も切り替えのために淹れる。日々の句読点のような使い方かもなぁ。
映画の仕事していると、映画の初日とかって「お茶でも飲みに行きましょう」って何度も喫茶店に行くことがあって、延々美味しくないコーヒーとか飲まないといけないの。それが嫌だから、いつも違うものを飲むようにしてる。
飲み物を惰性で飲み続けるのが好きじゃないのね。周りの人に「なんのお茶が好き?」と聞くと「お茶って何茶とか考えたことがない」とか言われることも少なくなくて、ちゃんと考えて飲んだ方が美味しいのになってすごく思う。
-コーヒーいれてる時は無心ですか?今日これしようって色々考えてますか?
何も考えてないかも!コーヒーをただ見てる。
-いい空っぽ時間ですね。
料理の時もそうかな。
-以前、「ストレスたまると料理作りたい」って言ってましたね!
料理だと行き過ぎたり火にかけ過ぎたりとかがあるから他のこと考えないから。煮物は別だけどね。笑
お酒が好きなやちむん職人の最期
-ところで使っている器具が素敵ですね!
1979年の実家の新築祝いでもらったミルを使っています。
それと沖縄の陶工がつくったやちむんの大きいドリッパー。
-面白い形。なんかでっかい…。ふくら舎で扱っている作家さんですか?
そう。もしかしたら(作っている人は)ドリッパーが何なのかもわかっていないかもしれない。笑
ドリップした後にドリッパーを置いている下の皿は出西窯の小皿なんだけど、ぴったりのサイズと色・形だから合わせて使ってます。
実はここの窯の職人さんは70才で今年の夏に亡くなりました。ふくら舎を始めた頃からお付き合いがありました。
-そうなんですか。
いい亡くなり方だったね。
前日に家で息子と酒飲んでて「明日もがんばろうね!」と息子さんは帰ったんだけど、次の日の朝、息子さんが家に来たら亡くなってたそうなの。
息子さんの連絡先を知らなかったので、沖縄で直接、工房にもご自宅にも行った。
どっちの場所も「家主がいない」という雰囲気がいっぱいで、やっと亡くなったとという納得ができました。
空港へ向かおうと思って桜坂劇場※1に寄ったら、ちょうど息子さんがいらっしゃっていて、「父がふくら舎にお世話になったからご挨拶に」と。
「茂生窯でやっていきますので、一緒に頑張りましょう。一人になっちゃうけど」って言ってくださって。
※1桜坂劇場‥ふくら舎の本部でやちむんを販売している場所
次の日にスタッフが電話をしたら、もう工房に出ていて、お父さんがやり残した厨子甕 ※2の脚を作っていたそうで、やる気満々だなと安心しました。息子さん、お父さんとそっくりな顔してるんだよね。
※2厨子甕‥‥沖縄の骨壺
茂生さんのコップや猪口は飲みやすいんです。お酒が大好きで、最後の日も飲んでいたくらい好きだったから、飲み口にこだわっていたんだよね。
ある時、茂生さんにふくら舎の代表が「ペットボトルのお茶なのに、茂生さんの湯呑で飲むと美味しいですね」と聞いたら「よくわかったね!こだわってるんだよ」って嬉しそうに飲み口のことを話してくれたそうなの。
最後までかっこいい陶工だった。
確かにこの飲み口面白い形をしているし、口への飲み物入り方が変わりそうです。
麻衣子さんと谷根千暮らし
-ところでお部屋の片隅にある梅干しの黒板が気になっています。
麻衣子さんは普段自家製酵母からパンを作ったりもしてるみたいですが、そういうことをするきっかけってなんだったんですか?
(少し考えて)母親がきちんとご飯作る人だったし、パンも最初は母が作っていたからイーストで真似して作ったりし始めたね。
-じゃあ割とナチュラルにやるようになったんですか?パン作りとか結構気合い入れてやるもんなのかなっておもうのですが。
「パン作ってみよっかなぁー」みたいな
-軽っっ笑
梅干しとかは、この町にきたからだと思う。結構梅とかをもらうわけよ。
-谷根千に住むと梅ってもらえるんですか?
梅たくさんもらえるよ。ぜひ食べてみて!
梅を試食させてもらう
-綺麗な色。「梅干し可愛いー!」と取材陣は興奮しきりです。
干しただけで赤くしない人も多いけれど、私は赤紫蘇で染めました。
-とても綺麗です。
去年は友達がくれた梅でやったんだけど、今回は南高梅で作ってみた。
去年の残りは干してゆかりにしたよ。ゆかりも食べる?
-えっっ…
(美味しいゆかりをもらう)
(ゆかり美味しいっ)
-酸っぱい!美味しい!赤い色がいい具合ですね。
梅の味がしっかりする。
梅を去年すごくたくさんもらったのよ。梅エキスとか梅ジャムとかいろんなもの作ったのよ。でももう弾がない、ってなって、だから梅干し作ろう!と思ったのよ。
-へぇ、すごく自然な流れでやってるんですね。無理やり豊かな暮らしをしているわけじゃないというか。
そうなの。もらうの。
この琺瑯もタダでもらってきた。
-へぇ。
道に。
-道に?!w
この町には「ご自由にお持ちください」とよく書いてあるの。
大きな画面だといろんなものが見える
-映画のお仕事のことを教えてください。フリーランスの宣伝マンとのことですが。
映画の仕事やり始めた時はやりたい!って営業に行って会社に入ったけど、フリーになったのも会社辞めたからだからね。
フリーになったのは会社辞めたら、仕事がきたのでそのままフリーになっただけ。辞めてから会社の面接を受けたこともあるのだけど。受けた会社の最終面接で、社長に「一人でやっていけるね」と言われて「会社受けに来たんですけど」と返して爆笑でした。落ちたんだけどね。
-会社勤めからフリーになったきっかけは?
会社辞めたのは、お給料が遅れ始めたこと。
それにここにいたら、ずっとナンバー2で、社長よりいい宣伝マンになれないなと思って。
お互いの為に、よくないと思って辞めようと思ったの。
-元から映画が好きだったんですか?
映画と洋服が好きだったのだけど、映画の配給会社への入り方がわからなかったからアパレルの会社にに入って2年経ったくらいで「やっぱり映画がいいな」と思って、半年かけてその会社を辞めました。
-映画を作る方ではなかったんですね?
映画を作る才能が自分にはないとわかっていたし、興味もなかった。映画を観客に届ける、伝える仕事がしたかったのよ。
-ネットフリックスについてはどう思いますか?
動画配信に興味がない。
そういう時代になっているのは理解しているけれど‥‥。
小さい画面が嫌いだし。
大きい画面だと、スマホやタブレットでは見えないものが、たくさん見えるよ。
仕事上、どうしてもパソコンで觀なければいけないときはある。そういうときは、せめてTVにつないで少しでも大きな画面で觀られるようにしています。
-そうなんですね。
大きい画面だといろんなものがいっぱい見える、というのは意外な盲点でした…。
その後麻衣子さんは、
「アイス食べない?」と言って湯の山温泉の湯の花せんべいと、
レディーボーデンのアイス(バニラとストロベリーとチョコレート)を「何味がいい?」と並べてくれました。
「何やさん??ww」と大興奮でいただきました。可愛くて美味しい。
麻衣子さんちのお庭は東京のアパートの庭とは思えないくらいに生き生きとした緑がたっくさんありました。ビルがたくさんあるのにこんなに緑がたくさんある違和感に、どこに来たのかわからない気持ちにさせられて。この緑たちも引越しをする友人にもらったりしたものだそうです。
麻衣子さんのことを見ていていいなって思うのは、自然だなっていうところです。
丁寧な暮らしって近年流行していて(流行するものなのかはよくわかりませんが)、突然味噌や醤油を作り始めたり、縫い物初めてみたりDIY始めたりするというのはなんだか取ってつけたようで自分自身にはなかなか適用できないなと思っていたのですが、麻衣子さんの生活にはそういう不自然さがなくて、何かを無理に確立することよりも来た波に上手に乗る感じ。生活全てを麻衣子さんの手でデザインしているのがこういう有機的な生活を生み出しているんだなと思いました。
緑の元気さに説得力を感じました。
貴重なお時間と美味しいコーヒー、ありがとうございました。