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Salvador Coffee

札幌市内には路面電車が走っているのをご存知でしょうか。

その路面電車の通る道路沿いに面してSalvador Coffeeさんはあります。

昨今、札幌でもスペシャルティコーヒーの専門店が増えて来ましたが、その流れを牽引したお店の一つ。

店主の柴田圭介さんは、スペイン留学を機にカフェバル文化に触れ、次第にコーヒーの道を進むようになりました。

筆者も北海道出身であり、札幌ひいては北海道のコーヒーシーンが盛り上がることを期待する思いから、いつかお話を聞いてみたいと思っておりました。

今回、その願いが叶い、お話を聞かせていただくことになりました。

インタビュー:Nana Hiro
写真:唐川貴帆

街に根付き、日常に溶け込む
スペインのカフェバル文化に触れて
お店がオープンするまでの軌跡

—まず、コーヒーを始められたきっかけからお伺いします。スペインに留学されていたというお話を伺ったのですが、スペインを留学先に選ばれた理由もお聞かせいただけますか。

僕は出身が北見なのですが、尊敬していた先生から勧められ大学は沖縄の大学に進学しました。

その時に専攻したのが、ヨーロッパ文化専攻という言語と文化を学ぶ外国語の学科でした。進学をする前から大使館の仕事に興味を持ち始め、大学に行って英語とスペイン語を学び、大使館で働きたいと思っていました。

4年間スペイン語を学びましたが、4年間勉強しても日本にいては読めても話せない、コミュニケーションが十分に取れなかったので、このまま卒業するということにコンプレックスを感じました。卒業時に就活を一切していなかったこともあり、留学を決意しました。

その当時はコーヒーには興味があった訳ではなく、レポートを書くお供にコーヒーを飲むというくらいのものでした。

外で飲むとお金がかかるということもあり、自分でコーヒーメーカーを買って家でいれて飲むようになり、そうしているうちに少しずつ好みが出てきて、酸味が苦手だなというようなみんなが持つような感想を持ちましたが、本当その程度でした。

スペインに行くと、向こうはカフェバルがたくさんあり、朝ご飯、お昼ご飯、夕方にはお酒を飲みに行って…と毎日のように通うようになりました。

Salvador coffee店主の柴田圭介さん

—とても身近なんですね。

お金がかからないから地元の人もみんな行くんですよ。コーヒー一杯1、2ユーロくらいで飲めるんです。そうして1年間通い続け、カフェバルの文化に触れて、すごく居心地が良かった。ですが、日本に帰ってきてみたらそういう場所はなかったんです。

スペインから帰ってきて一旦地元の北見に戻ったんですけど、地方だと余計にそういう場所がなくとても寂しかったですね。

3ヶ月間くらい留学で借りていたお金を地元で働いて返してから、札幌に出てきて仕事を探し始めました。大使館への就職を目指すことやスペイン語を極めることに興味が無くなってしまって、何をしたいのかと考えた時にカフェバルのような場所で働いてみたいと思うようになりました。

そうして短期間でも働いて得られるものが多いだろうと考えてスターバックスに入社しました。

スタバに入社してまもなくしてブラックエプロンの試験がありました。

店長に受けてみないかと誘われ、やるからには取得したいのでめちゃめちゃ勉強して取得しました。

それからコーヒーのことをお客さんによく聞かれるようになり、どうやったらコーヒーについてよりよく伝えられるかなと考えるうちにコーヒーって面白いなと思うようになり好きになったんです。

—学ぶこと自体がお好きなんですね。

そうですね。面白いこと、わからないことがわかるようになりできるようになるのは面白いですね。

—それからお店のオープンまであっという間に進んでいったと聞いています。

あっという間でした。1年半しかスタバに在籍しなかったんです。最初の採用面接の時点で2年だけと決めて働くと伝えていました。店長も2年で退職できるようにカリキュラムを組んでくれたんです。

—その時から2年経ったらどうするというステップアップは決めていた?

決めていなかったです。

2年たったらどうしようか決めなきゃなと。

—では、その途中でお店が見つかったんですね?

はい。

スタバで働いている時には本当にいろんな学びがありました。

オペレーションに関してもお客さんとのやりとりに関しても多くの学びがある。

ですが、スタバではマシンが全自動なので基本的な知識は身に付くけれどバリスタとしてエスプレッソの抽出やハンドリップなどの実践スキルが身につけられなかった。1年ちょっと働いた時期にそこにぶつかるようになってしまいました。

そこで週2日の休みを使って別のカフェでバイトをしようと思い、働き先を探し始め、ATELIER-Dというカフェが「Dplus」※1という新店を出すという話を聞きました。札幌で初めてスレイヤーのエスプレッソマシンを導入するというところでした。

東京のフグレンに行ったときにスレイヤーを見てかっこいい、一度触ってみたいと思っていたこともありそこで働き始めました

月に4、5回くらいの出勤だったのですが、そこでエスプレッソやラテアートを教えてもらうようになりました。

Dplusが今のお店の近辺で、買い出しの帰り道で物件を見つけたんです。目と鼻の先でした。あの店で働いていなかったら物件を見つけられていなかった。

独立するつもりはなかったけれどいくらで借りられるのか、どのくらいのお金があったらお店を始められるんだろうかと考え始めて、見積もりを取るくらいなら無料だしなと思い、見積もりを取ったりしているうちにそのまま独立する運びとなりました。

※1…札幌市内の建築会社が経営するカフェ。現在は閉店しています。

—そこからお店をやるって相当勇気いりますよね。

今考えたら相当勇気のいることだったと思います。

その時期が僕にとっての岐路だったんですよね。

この場所を見つけた頃、スタバでは中目黒のロースタリーができることになり、社内公募が行われ異動の希望を出していました。

その当時働いていた店舗で自分らしく成長しながら働くことに限界を感じており、もっと成長するために思い切って環境を変えたかった。なので、ロースタリーへの社内異動はとても都合が良かったし、それが叶わないならせめてスタバ掛け持ちで自分のお店を始めてみようと思っていました。

そしたら、店長に「独立してお店借りようとしているんだってね。それなら異動の希望取り下げておくね」と言われてしまった。

なので、お店を開く方に傾かざるを得なくなったのですが、お店やることが決まったあとは、店長に「お店をやるというのは生き残りをかけた厳しい世界に飛び込むということ。掛け持ちなどせずに一本に絞って集中してやりなさい。」と言われ、志半ば追い出されるような格好で退職が決まりました。

—店長さんが背中を押してくれたんですね。

何年も準備してからお店を始めるという方も多い中で、実際初めてみてどうでしたか?

怖いもの知らずでした。

お金も全く持っていなくて貯金が10万円しかない中で始めました。

内装も全部自分でやればいい、とりあえず経営と工事費のために100万円借りられたらいい、借りてダメでも返せばいいという気持ちで、失敗するというビジョンが1ミリもない状態で始めました。

内装工事を1人でやっている様子を3ヶ月間Instagramに投稿していました。そのおかげもあって、実際に始めてみるとInstagramの投稿を通じて店舗の工事やトラブルで苦労している様子を見守ってくれていた人たちや、近所のお客さんが物珍しさから来てくれました。

僕のコーヒーへの思い入れや気持ちが伝わってくれて、リピートで来てくれるようになりお店をオープンして3ヶ月目で黒字化したんです。

大きなリース料もないし自己経費がかかっていない分、黒字だったけれど100万円の資金は開業で60万円、運転資金で40万という内訳でその中に自分の生活費が入っていたわけです。10月29日にオープンして11月の末くらいにまずいぞという時期がありました。このまま行くと来年の2月までに足りなくなるなと。

—その危機はどのように乗り越えたんですか?

最初は追加融資を考えました。

見立てが甘かったです、運転資金がもっと必要でしたと相談に行ったら

「あなたバイトしてでもやるって言いましたよね」と言われて確かに言ったなと(笑)

バイトはしませんでしたが、来客数を増やすには時間も労力も足りない状況だったので、どうしたら現状の客数のまま生活ができる水準まで売上を伸ばせるのかを考え単価を徹底的に見直し、12月はとにかく頑張って1月2月と乗り越えました。

偶然にもお店を初めてすぐに地元の雑誌に掲載され、翌年のカフェ特集本の表紙に載せてもらいました。その後も運良く地元のテレビに出演する機会があり、常連さんも多くついてくれて助けられ、何とかやってこられました。

ギリギリな時があってこそ、こうやって店は潰れていくんだなと実感が湧きましたね。

—柴田さん自身がパワフルだしそれがあって運を持ってくるんでしょうね。

いろんなことに挑戦していらっしゃるなという印象があります。

お食事のメニューも凝っていたり、セミナーを多く開催していたり。

全て自分で考えられていたんですか?

はい。全部自分で考えています。

単価を上げなくてはという課題に対し、どうやって上げていくのが自然なのか考えた結果、その頃は焙煎や豆売りをやっていなかったのでフードを出さなきゃいけないなと。

でもうちはコーヒー屋であってレストランではないので曜日限定でやってみようと思いました。

隣にパン屋さんがあったのでそれを使わせてもらって水曜日限定のビストロメニューを出してみよう。

週末はみんなお金を使いたいのではと考え、金曜日限定でコーヒーとの相性も良いカレーを出して特別感を出してみよう。

そんな風に作戦を立て、曜日ごとの常連さんを作ろうと色々なことに挑戦してきました。

—面白いですね、曜日ごとの常連さん。

常連さんのリピートは多かったのですが、一人のお客さんがたくさん店を使ってくれるから大丈夫ということにはならないですから。それぞれのお客さんがそれぞれの目的があって来てくれるという見立てで、いくつか収益の柱を立ててみたんです。やってみてダメなら辞めればいいし、伸びるなら伸ばしていけばいいと思い取り組んでいきました。

—では客層も広いんじゃないですか?

イベントを目掛けて新しい方もいらっしゃるんですよね。

そうですね。

年齢も幅広いし、近場の人も遠方の人も半々くらいです。常連さんと新規のお客さんも半々くらいです。

今はイベント自体が少ないですが、始めた当初1、2年目はきっかけ作りをたくさんしていたので、来てくれるお客さんは多かったです。

それが段々と別の曜日に来てくれたり、豆を買ってくれたり、オンラインショップを利用してくれたりなど広がっていきました。

—それこそバルのようにどんな人でも使えますというのを提案してくださっている気がしますね。

バルも朝昼晩用途が違うけれど、多くの人が行きますからね。

札幌のコーヒーシーンをもっと楽しく、面白く
挑戦と交流を広げるためのイベント開催

—コーヒー屋さんへのアプローチも色々されていますよね。

しています。

—自分から発信されている強さがあるなと思いました。

私自身も北海道に住んでいた時からスペシャルティコーヒーの道を模索していましたが、当時は本当にお店自体が少なかった。最近ではお店も増えてきましたよね。

本当に増えたと思います。4年前とは比べものにならないですね。

お店を始めた時は閉鎖的というかつまらないなと思っていて。

東京に行っていろんなお店を回ってみて、札幌帰ってきたらそういうお店が一つもない。イベントもないし、パブリックカッピングのようなものもない。

—道外に出て、東京や福岡のコーヒー業界に触れたとき、とても横のつながりが強いと思ったんです。みんなでこの業界を盛り上げていこうという雰囲気を感じました。ですが、当時こちらではまだその雰囲気はなくて。

札幌では、飲食業界自体が厳しいんですよね。そういったことをやっている余裕がないというのが理由の一つとしてあるとは思います。

けれどこのままでは自分も面白くないし、なによりお客さんも退屈してしまう上、札幌で働くバリスタも成長できないので、どうやったら面白くなるのだろうかと考えました。

閉鎖的な環境の何が良くないかというと若手が育たないことだと思うのです。

自分が抽出したコーヒーがどうなっているかが説明できない、どんな味がしますかと聞いても答えられない。そういうプロ意識を持っている若い人たちが少ないと感じていました。

スタバで働いている時には、会社の方針として自社の商品を深く理解し、お客さんにとって素敵な体験ができるよう好みに合う味や、フードペアリングを積極的に提案していましたが、この業界に本格的に入ってみたら、それが当たり前ではないということにとても違和感がありました。今後のためにもバリスタの育成をした方がいいと思いましたし、コーヒーに対して熱量のある人を増やしたい。

失敗してもいいから自由にやればいいのにと思うけれど、残念ながらそういう人が少ないのでどうしたら打開できるだろうかと。

そう思ってイベントを行い、ドリップの大会を1年間開催していました。

奇数月に開催していて、各大会のチャンピオンを招集し、12月にはチャンピオン大会を抽出技術だけではなくプレゼンテーションを含めて開催しました。これは最高に盛り上がりました。

—実際人の広がりというのはありましたか?

自分が期待していたターゲットはなかなか来てくれないなと感じました。

市内でもバリスタを育成しているようなコーヒー専門店で働く方に主に来て欲しかったんですが、そういう方は残念ながら来てはもらえず…ですが、最初のうちはDplusの仲間を中心に集まり始め、徐々に他社で働くバリスタの方などが噂を聞いて参加するようになりました。さらには、バリスタではないけど挑戦してみたいという人まで来てくれるようになりました。

そうして、毎回人が集まって、次第に参加者の中から間借り営業を始める人も出てきました。

大会ではお客さんが審査員をします。みんな自分がいれたコーヒーを人に評価されるという経験がなかったので、その経験を経てもっと頑張ろうと色々練習するようになっていったなあと思います。

—コーヒーと向き合うきっかけを作っているんですね。

その時に関わってくれていた人たちはみんな東京のお店に行ってしまったんですが…

—えー!

札幌で仲間がいなくなってショックというのはありますが、みんなもっと高みを目指したいという気持ちで東京に行っているから、きっといつか帰って来てくれると信じています。

—大会のおかげで新しいスタートが生まれているというのは素敵なことですね。

そうしてみんな自分の道を探して行ったらいいなと思います。

—すごく刺激になると思います。

なかなか身を切ってそこまでやってくれる方っていないと思うんですよね。

4年やっていて同じような人がいないですからね。(笑)

コーヒーじゃなくてもいい、何でもいいので挑戦して欲しいという思いがあります。

「札幌のコーヒーをもっと面白くしたい」というバリスタだけではなくて、他のお店も同じように大会などやってくれたらなと思っていたんです。

ラテアート大会をスポンサーつけて開催するお店やパブリックカッピングをよく開くようになったお店もあって、周りではやり始めたところも多いですが、それでもまだまだ閉鎖的な現状ではあると思います。

—時間がかかりますね。

ただ、柴田さんのような一生懸命にコーヒーシーンを盛り上げようとしてくれる方がいることが知れて、帰ったら行きたいと思えるお店が増え私は嬉しいです!

「紹介する」から「紹介される」お店へ
札幌のコーヒーとSalvador Coffeeの第二幕

—焙煎もゼロから学ばれてやってらっしゃるんですか?

はい。今までやったことがなかったです。

お店を初めて1周年のタイミングで豆を買いたいという人が増えて来たんです。

ですが、自家焙煎をしておらず、卸で豆を買っていたので豆売りをすると原価率が上がりすぎてしまいます。なので、豆は卸先のお店で買ってくださいというスタンスだったんですよね。

きっかけはパナソニックのThe Roast※2を別のお店で触らせてもらったときでした。

プロファイルが最初から入っているから意外と簡単に操作できて興味を持ち、レンタルサービスを利用して2週間程借りて自分なりに遊んでみました。

その後、SCAJ※3に初めて参加してIKAWA※4のブースで焙煎体験をしたらとても面白かったんです。

小さいながらに機能がちゃんとしていてオンラインに公開プロファイルがあるから試すことができる。

SCAJのクーポンで割引になるし…それで1周年記念の豆を自分で焼こうかなと思って買ってしまったんです。

※2…パナソニックが発売している家庭用の小型焙煎機。現在は販売が終了しています。
※3…東京ビッグサイトで毎年開催されるコーヒーに特化した見本市。メーカーの実演販売や競技会も行われている。
※4…イギリス製の高性能のサンプルロースター。

—思い切りましたね!

フードとドリンクだけで単価を上げることに頭打ちを感じていて、豆売りをやったらもう少し楽になるのではと思ってのことでした。

最初はオンラインのライブラリのプロファイルをそのまま使って焼いてみて、どうしてこういうプロファイルになるんだろうかというのを調べながら焼いていました。

3ヶ月くらいずっと焼いていたら IKAWAでは間に合わないなというタイミングが来ました。

それから、札幌で唯一シェアロースターを行なっているスカイブルーコーヒーロースター※5さんで焙煎機を借りて焼き始め、そこから真面目に勉強し始めました。IKAWAとは全然違い、イメージ通りに焼けないから難しくて。試行錯誤しながらやっていきました。

※5…札幌市内のスペシャルティコーヒー専門店。

—今はどんなことを意識して焙煎していますか?

いい意味での流行ってありますよね。

ちょっと前まではめちゃくちゃ浅煎りが流行っていたけど、段々極度な浅煎りが好まれなくなってきて中煎りになり最近では深煎りもいいじゃんという雰囲気が出てきています。ローストレベルに関してはそのトレンドをなぞっていますね。

札幌で焙煎やコーヒーをやっていることの意味は、札幌ではまだ知られておらず流行っていないものを表現するためだと思っているので、東京や大阪、福岡など最先端のコーヒーシーンのトレンドを意識しています。

表現したい味というのは、フレーバーに関しては強いイメージはありません。あくまでも素材を100%活かすことが大事だと思っています。

うちのお客さんが好む味わいをイメージしてフレーバーを決めることが多いですね。

とりわけ浅煎り、深煎りだからやりたいというのはないし、今のトレンドを伝えつつ飲みやすいコーヒーというのが一番お客さんに寄り添っているなと思い焙煎をしています。

—新しい味に出会える、流行っているものが知れるという役割がお店にあるのは良いですね。

店を始めた当初から、札幌では扱いのないような浅煎りの豆を仕入れていました。

浅煎り、酸味が苦手と言いつつ、美味しいものは美味しいのだから表現の仕方次第だと思います。意外と受け入れられたという印象です。

札幌はまだまだ発展途上の中にいると思います。生豆の買い付けに関しては、今後も道外のお店と同じレベルのものを仕入れるようしていくんですけど、それが特別なことではなく札幌においてもスタンダードになって欲しいです。

—豆のラインナップが多いですよね。

ブレンドは通年出しているものが2種類と季節で出しているものが1、2種類。

シングルは10種類あります。いつ来ても飽きないラインナップにするようにしています。

シングルは選びに選んでそれくらいなんです。本当は常に13、4種は出していたい。

年間でうちでも300~400種類カッピングして30~40種類ほど買っています。

—いいなと思ったのが、「ブレンドおまかせで作ります」というもの。そんなことしてくれるお店滅多にありませんよね。

注文は多いですか?

「贅沢ブレンド」ですね。お客さんの好みを聞いてその場でブレンドを作ります。

贅沢ブレンドを店舗で提供していた当時は、商品名がパッと目につきやすい工夫をメニュー表に施していて、無意識に選んでもらえるようにしていました。ですが、味わいのリクエストを聞くと、意外とみなさんキテレツな注文などせず普通の味を希望されます。「私はこういうコーヒーが好きです」と言うのは敷居が高いのか、それとも普段あまり意識せずコーヒーを飲んでいるのか。自分が好む味を知ることが、うちのお店でのエクスペリエンスの一つになっていたように思います。

—まもなくお店を開かれて4年経ちますが、これからの展望をお聞かせください。

今年の10月で丸4年になります。

これからどうしたいのかという部分が僕にとっては一番難しいところです。

最初の2,3年でギュッと詰め込んで、そのタイミングでコロナ禍に入ってしまい、捨てるものが多かった。イベントもできない、フードもやらなくなった。パブリックカッピングも買い付けの時に最低限だけ。色々やって来たものを躊躇なく全部捨てなくてはいけなかった。

今まで11時〜22時半の営業時間だったのを12時〜18時半まで短くして、この極限まで小さくした後にどのようにしていこうかというイメージがすごく難しい。

変わらないのは、目線を最先端のコーヒーシーンとずらしたくないということ。札幌はどちらかというと、人を呼んでマルシェやコーヒーフェスを行い、コーヒーの最先端を紹介しているフェーズです。

今まではうちが東京ではこういうコーヒー屋さんがあるんだよという窓口のような役割を積極的にやっていたけど、それは人に任せることにしました。

—伝える役割というのは他のコーヒー屋さんに任せたい?

はい。

ようやく今まで紹介してきたようなコーヒー屋さんが札幌のコーヒーフェスなどの行事に来るようになりました。

また、間借り営業の人たちも道外の豆を使うようになってきました。

新たにスタートを切った彼らによって、新たなコミュニテイや文化が生まれるはず。なので、その役割は彼らにバトンタッチしたいなと思います。

外のものを一生懸命紹介するというのは人に任せることにして、今度は札幌を知ってもらう番だと思っているんです。

東京大阪と同等のレベルで札幌のコーヒー屋さんがあちこちに呼ばれるようになってほしい。全国的に見ると札幌のコーヒー屋さんで名前が挙げられるお店が少なすぎるんです。

現在ABCcoffeeclub※6に豆を卸して使用してもらっています。そういう機会を増やして、札幌のコーヒー店を全国に広めていきたいですし、これまでの活動で繋がりのできたお店からさらに発展して外に出ていく機会を模索しています。

いろんなところから呼ばれるようになりたいですよね。

※6…東京の自由が丘に本店のあるマルチロースターショップ。コーヒーを作る人のインタビュー「AO COFFEE」さんをご参照ください。

—現在もご自身でいろんな場所に出向かれていますよね。

呼ばれたらどこにでも行きますと言っています。7月には石垣島に行きました。

この1、2年コロナ禍に入ってから最も力を入れていることです。今後の展望としてはその活動が大きいですね。

札幌すごいじゃん!札幌のコーヒー面白いな!という風に思ってもらいたいですね。

柴田さんのお話からコーヒーだけでなく地元への熱い思いも伝わり、心から応援したい気持ちが湧くのと同時に自分自身ももっと頑張らなくてはと鼓舞される思いでした。お店のお客さんや、イベントに参加してコーヒーの道を志した人たちも同じ思いを持ったのではないかと思います。

また、お客さんだけではなくコーヒー屋さんにも全力でコーヒーを楽しんでもらいたいという姿勢がとても伝わりました。何より、柴田さんが全力でコーヒーを楽しんでいるのですから。
この記事を読んでいる皆さんにも、札幌のコーヒー屋さんを代表する一つとしてSalvador Coffeeさんを知ってもらう機会になれば嬉しいです。

Salvador Coffee
札幌市中央区南21条西11丁目4-11
営業時間:12時〜※閉店時間についてはお店にお問い合わせください。
定休日:水曜、木曜
HP: https://salvador.supersale.jp/
Instagram: https://www.instagram.com/salvadorcoffeee/