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唐川貴帆さん(浜ガール時々Beer Pub KiHOのママ)

今回は初めての遠隔インタビューとなります。

みなさんは北海道の八雲町という場所をご存知でしょうか。

道南の町、函館から車でおよそ1時間半。内浦湾に面した小さな町です。

筆者の友人である唐川貴帆さんは、札幌からこの八雲町に移住しました。

貴帆さん自身は埼玉県の出身です。仕事の都合で北海道に住むことになってから北海道に魅了され、定住することを決めたそう。

道内各地を訪れるうちに、さらに地方に移住しようという考えに至ったそうです。その物語をお聞きしました。

インタビュー: Nana Hiro
写真:唐川貴帆さん提供& Mai ito

北海道と結婚したい!
魅了され決めた地方移住

—現在、八雲町に住み始めたということで、まずはその経緯をお伺いします。

前の仕事が全国転勤で、札幌に住むことになり、それがきっかけで北海道が大好きになりました。「北海道と結婚したい」と言うくらいに魅力的を感じていました。

配属されてから4年半程経過していたのでそろそろ異動があるだろうなと感じていました。でも、出たくないなと思っていて。

札幌も好きだけど、せっかくなら北海道の田舎町に住んでみたいと思っていたので、仕事を辞めてさらに地方に移住しようかと考えていました。

ただ、ぼんやりと考えていただけだったので、移住先を探すために出かけるだとか、住むならこの町がいいというのも特別にありませんでした。

去年の3月の終わりに仲の良い友人が八雲に遊びに行っていてその様子を伝え聞いていたのですが、当初は名前を知っていたくらい。その話がきっかけとなり面白そうだなと思い翌月にわたしも初めて遊びに行きました。

行ってみたら良い意味で観光地化されておらず、海も山も川もある手付かずの自然で囲まれていてとても良い場所でした。それから、5週間連続で休みの日には遊びに行きました。

八雲町にある「古民家ゲストハウスSENTŌ」というゲストハウスを目的に行っていたのですが、そこでいろんな人と繋がることができ、出会った人がみんな面白かったんです。

わたしは自動車の免許を持っていないのですが、もし、田舎町に住むとなると免許を取らなくてはいけません。八雲町の隣町である厚沢部町で農家さんの住み込みアルバイトをしながら免許取得をするというプログラムをしている人がいるという話を聞いてそれはいいなと思っていたところ、SENTŌのオーナーさんから「八雲にも自動車学校も一次産業のアルバイトもあるから同じようなことができるよ」と話を聞き、それならば住んでしまおうかと思うようになりました。

昨年の5月には移住を本格的に考えるようになり、退職してから9月に引っ越してきました。

—移住者は結構いるのですか?

わたしとほぼ同時期に移住した人が一人いましたね。地域おこし協力隊で来る人もいますし、先に話した友人も今月引っ越して来ます。

街全体で見たら多くはないかもしれませんが、ゲストハウスのオーナーがいろんなプロジェクトをやっていて、移住にも力を入れているんです。八雲町自体も取り組みを面白がってくれていて、周りには本格的な移住とはいかなくとも、何ヶ月か滞在するような短期移住をされている方が結構います。

—移住は歓迎してくれるんだ。ゲストハウスのヘルパー※1も短期移住のひとつですよね。そのような方が多いのでしょうか。

そうですね。

地域おこし協力隊には酪農ヘルパーの仕事があるし、農業でも収穫時期に合わせ何ヶ月かで短期バイトをするという人もいます。

田舎町にしては人の出入りがあり、閉ざされている感じではありません。

地理としても函館から札幌への道の途中にある町で人の往来もありますしね。

これから面白くなっていく町だと思います。

※1…ゲストハウスではフリーアコモデーションという宿に無料で滞在する代わりに宿の清掃など一部業務を手伝ってもらうという労働形式がある。

—やはり一次産業が多いんですね。

はい。農業、漁業、酪農業、林業など一次産業は何でもあります。

野菜だと軟白ネギが有名です。八雲の漁業の8割はホタテの養殖業です。

—今は漁師さんのお家に住んで、漁のお仕事を手伝っていると聞きました。

はい、そうなんです。今住んでいるのがホタテの養殖業をしている漁師さんのお家です。

移住を決めた当初は、SENTŌさんに滞在しながら一次産業のアルバイトを探すつもりでした。

八雲に移住しようと決めてからも移住前に何度も遊びに来ていて、7月には小学校の廃校をリノベーションしてキャンプ場にするというプロジェクトに参加しました。そこで現在お世話になっているホタテ漁師さんと出会いました。この方が漁師でありながら、ギタリストであったり、キャンプの達人であったりDIYやパソコンの自作まで一人で何でもできる面白い方でした。

仲良くなり冗談半分で移住した際に滞在させてもらえないかというお話をしたところ、了承を得ることができ、ホームステイさせてもらえることになりました。更にお仕事もお手伝いすることになり今に至ります。

元々、大家族だったお家なので部屋がいくつか空いていて、その一室に住まわせてもらっています。

—1日はどのように過ごしているの?

漁に左右されますが、天気が良ければ朝3時から船に乗って海の中のホタテのついたロープを巻き取って船の上にあげ、出荷するという作業を8〜9時くらいまでしています。

そのあとは自由時間です。夜の9時には寝ています。

時期によって作業が違うのですが、3月からは耳吊りという作業があります。ホタテの耳にピンを指してロープにつけていく作業を朝から夕方までします。それがゴールデンウィーク頃まで続きます。

ホタテの稚貝を育てる過程で、育成用のカゴからカニや小さすぎるものを取り除いて選別し、カゴを替える作業もあります。

唐川貴帆さん(Mai Itoさん撮影)

—その傍らビアパブを開催しているんだよね。

はい、「Beer Pub KiHO」という名前で八雲に移住する前にSENTŌさんで一度やらせてもらってから、月に一度程の頻度で開催しています。

ゲストハウスにレストランが併設されていて、イベントを開催したり、わたしの他にもいろんな方が間借り営業をしています。

お客さんはそのときに滞在しているゲストハウスのヘルパーさんだったり、地元の方も来てくれて、そのまま飲み友達になったりします。

—地元の方とも交流が生まれるのは素敵ですね。何を出しているの?

クラフトビールがメインでおつまみなども出しています。

仕入れは札幌にポートランドのビールを仕入れている会社があり、月に一度は新しいものが入るのでその都度仕入れています

札幌で仲良くしていたビール作っている人、売っている人、そしてビールが好きな人たちでやっていた草野球チームがあって、そのチームにわたしも入っていました※2。そこで繋がりができ、お取引きさせてもらうようになりました。

※2…貴帆さんは学生時代なんと野球をしていたんです!

—アンテナを張るのがすごく早いよね。クラフトビールも、スペシャルティコーヒーも、スパイスカレーも。福岡ではいち早くその流行がやってきていました。札幌は少し遅れて流行り始めたように思いますが、貴帆さんはすぐにその流れに乗り込んでいたというか。

わたしが住み始めたときは少なかったですが、今はだいぶそれぞれのお店が増えて定着してきていますね。

スパイスカレーは札幌のお店から送ってもらったものをビアパブイベントで出しています。

コーヒーもわたしの後に移住してきた子がゲストハウスで提供していて、一緒に勉強したりしています。

コーヒー文化もクラフトビール文化も八雲で育っていったらいいなと思います。

—そもそも、コーヒーやビールにハマり始めたきっかけはどこからでしたか?

どちらも北海道に来た当初は飲めなかったんです。

ですが、コーヒー好きな人が周りに多く、コーヒーにこだわっているお店も多かったので、せっかくならブラックで飲んでみようと一口ずつ挑戦していたら飲めるようになりました。味の違いがわかって楽しくなってきた頃、スペシャルティコーヒーのお店が増え、飲み比べて自分でいれるようになりました。

特に、外で飲むのが楽しかったんです。

外遊びが好きなので、豊平川※3や山の上に行っていれて飲んでいました。

ビールはコーヒーよりもう少し後に飲めるようになったんですが、きっかけはサッポロクラシック※4と行者にんにくジンギスカンです。(笑)

クラフトビールは飲む機会がなかったわけではないのですが、よくわからないなあと思っていました。それが、一昨年の3月に美深町※5にアウトドアで遊びに行ったときに訪れた日本最北の「美深白樺ブルワリー」というブルワリーをきっかけに変わりました。そこでは、白樺樹液を使ったビールを醸造しています。それがとても美味しかった。

それからはクラフトビールの美味しさに気づき、違いがわかるようになって抜けられなくなりました!

※3…札幌市内を流れる川。河川敷が広く、レジャー施設としても利用できます。
※4…サッポロビールが販売する北海道限定の銘柄。たまに道外でも売っています。
※5…北海道の上川地方にある町。かぼちゃやじゃがいも、白樺樹液の加工品もあります。

—コーヒーが好きな人はクラフトビールが好きだし、ワインが好きな人多いですよね。味の違いを知るのが楽しいというのが共通点でしょうか。外でコーヒーをいれるときは何でいれていますか?

ドリップしています。南部鉄器の小さなやかんをもらってそれでいれています。

ドリップをする時間が好きですね。

豆は札幌に行ったときに買ってくるか、生豆を買って家でフライパンで焙煎したりしています。キャンプに行ったら焚き火で焙煎して朝に飲んだりします。

豊平川河川敷からの風景。

—自分で焙煎するんだね。どこのコーヒー屋さんによく行きますか?

札幌では、スカイブルーコーヒーロースターさんやとサルバドールコーヒー※6さんなどによく行きます。

サルバドールコーヒーの店長さんは、月末のイベントで八雲に来てくれることになりました。

※6…札幌市内のスペシャルティコーヒー専門店。

—それは嬉しいですね。道内だと移動距離が他の地域とは桁違いですが、道内各所から友人知人は来てくれたりしますか?

わたし自身フットワークが軽いんですが、「類は友を呼ぶ」なのか、八雲まで来てくれる人もいます。以前、自転車で道内各所を旅したことがあったのですが、そのときにできた友人や札幌のゲストハウスで知り合った人、道内ではないけれど、岡山や愛媛の友人も来てくれました。自分自身がいろんな場所に遊びに行ったら繋がりが増えました。

みんなで「楽しい」「幸せ」を共有したい
これからの八雲町での暮らし

—将来の展望などはありますか?

北海道に来てから気づいたことなのですが、わたしは先々のことはあまり決めない方が合っているんです。

なので、これと決めてそこに向かって頑張るというよりは、常にフットワークを軽くしておいて面白いことがあれば飛びついて行けるようにしたいなと思っています。

自分の想像のできる範囲は限られるけれど、いろんな人との出会いがあることで自分が考えもしなかった面白いことが出てくるので、どんどん飛び込んで行けるようにしたいです。住む場所についてもいいなと思うところがあれば移り住んでいけたらと思います。

今は八雲の町が気に入っているので楽しい町にしていけたらいいなと思います。

—ただ、北海道は譲れない?

それは絶対です!北海道と婚約しましたので。(笑)

—すごい熱量!北海道のどこがそれほど魅力的?

自然です。地球に住んでいることを忘れないでいられるところです。

北海道に住んでいる人、出会った人も大好きです!

—そう言ってもらえると北海道出身者としてはとても嬉しいです!
今年についての目標はありますか?

引っ越してからは八雲町を出ることがなかったので、また外に遊びに行って、人に会いに行きたいです。会いに行くことでまた、会いに来てくれる人がいたら楽しいなと思います。そこで、やっと自動車免許を取ろうと思っています。

それと、八雲町でキャンプのイベントを開催したいな。

一人暮らしやソロ活動が長く自分が楽しむのは得意なんですが、北海道に来て友人ができ、わたしが楽しいなと思っていることを友人も楽しいなと思ってもらえ共感できることが幸せだと気づいた出来事があったんです。

昨年、友人と2週間程初めてのシェアハウスをしました。それまでは絶対に人と一緒に生活はできないと思っていました。ですが、やってみたらそれが楽しかったんです。思いを共有して「美味しいねえ」「幸せだねえ」と言い合えるのが楽しかった。

八雲の周りにいる人たちのことが大好きなので、みんなで楽しいね、幸せだねと言い合えるように何かできたらなと思っています。

地方での生活というのは決して楽しいことだけではありません。不便さをも楽しむくらいの覚悟が必要だと思います。ですが、貴帆さんと話していると生活をまるごと全部楽しんでいるのがとても伝わりました。北海道出身のわたしよりも遥かに北海道を楽しんで暮らしています。機会がありましたら、北海道の八雲町に遊びに行ってはいかがでしょうか?こちらまで元気をもらえるパワフルな貴帆さんがお迎えしてくれますよ。

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