[路端のブランチ]vol.11 ビッグ・アメリカンッ
『マイ・プライベート・アイダホ』を見た。あの映画を見ると不思議にハンバーガーが食べたくなる。
食欲をそそる映画ではないのだけれど、あの映画全体に漂うぐったり、もったりした空気、空腹時のインスタントコーヒーみたいな飢えた胸焼け感と相性がいい。
さて、砂を噛む日々に身をやつした土曜の朝、この映画に漂う空気を他でもない私自身が纏うことになる。金曜の晩、寝つけの一杯が深酒になり、二日酔いとあればいよいよ完璧。ちょっとばかり見栄えがしない東洋のキアヌリーヴスを気取ろうじゃないか。
映画の舞台、ポートランドは今ほど豊かでなくて、寒々しい衰退した街として描かれる。そんな街で暇を持て余し、若さをあらぬ方向に発散させる青少年がたくさん出てくるわけで、私もそんな街へ行く。こんな気分の日に子どもの声や木漏れ日の下にいてはいけない。満たされた幸福に空席はないのだから。空虚な場所へ行くに限る。
代々木公園に比べると幾分冴えないスケーターが駅前に屯していて、ペデストリアンデッキにはあらぬ姿で横たわるサラリーマンの屍、柵は反吐とグラフィティーとピンクのネオンで彩られた街。
そんな街の寂れた繁華街の外れにひっそりと薄暗く古ぼけたダイナーがある。ヒップホップよりブルースが似合う、狭いのに長居してしまう店。横浜あたりにあればやけにハイカラな爺さんがベルボトムを履いて待ってたりするんだろうけど、場末の繁華街にはそんな粋な人はいなくて。
主役のバーガーは、とにかくデカい。バンズもプレスしてあるから佇まいからしてぎっしり詰まっている。肉と糖質の塊、不健康。だが、だからこそ腹の虫は触手を伸ばすんだ。
古いジュークボックスから、ガラガラ声の歌が響いて、コーンウィスキーか安いビールが欲しくなる。
死んだ魚のような目をしたアンティークの人形がこちらを見下ろす店内で、ただ無言でむしゃぶりつく。ビールで流し込んで、我に還る頃はひたすら身体が重たい。
ビールにせよ、コーヒーにせよ、薄くてうんざりするくらいの量がいかにもアメリカらしい。ちょうど『マイ・プライベート・アイダホ』でも、全く面白くなさそうに、そんな食事をしていたような……気がする。
[路端のブランチ 序文]
日曜日、時計を外す。
そろそろ昼飯を食っておこうとか、もう帰ろう、とか考えることすら億劫だ。あまりに遅刻癖が治らないから、仕方なく間に合わせのチープカシオを平日だけつけるけれど、基本的には時計を見られない。類は友を呼ぶというが、周りもそんな輩が不思議に多い。
そういう奴らと遊んだり、野暮用を済ませたりすると、自ずと昼飯はグダラグダリとしてしまう。開店前に並ばなきゃいけない飯屋に休みの日を使ってわざわざ行くなんて、僕らの頭には浮かばない。
時間を気にせず、その時いた場所でサクッと食うメシが一番だ。 ivy