ivy

[路端のブランチ]vol.14 旅とサウダーヂと鯰麺

Column

ミンガラバー!

ミャンマー語で「こんにちは」。店の扉を開けるとき、元気よく言ってみよう。きっと柔らかな笑顔で迎えてくれるはずだ。

高田馬場、ここは日本最大のミャンマー人街。パスポートがいらないリトル・ヤンゴン(※ミャンマーの旧首都)だ。

何を隠そう私は学生時代最後の旅行先がミャンマー。一生行かなそうだから、という理由で友人について行ったが最後、その魅力に惹きつけられた。それ以降、私はここ高田馬場のミャンマー料理店に通っている。民族音楽や伝統衣装、民芸品……こうまとめるとなんだかありきたりな東南アジア観光のようだけど、この国はそのほとんどが現役バリバリ。だから、日本人がイメージするそれとは似ても似つかぬ、絶妙にアップデートされたミャンマー文化が花開いている。

そんなミャンマーを旅して一番惹かれたのは、やはりメシ。四六時中食い意地が張りっぱなしの私にとって旅先の飯が旨いかは死活問題で、また行きたいか否かの7割はメシで決まるといっても過言ではない。

この料理店の看板メニューにして、ミャンマーのストリートフード「モヒンガー」。ヤンゴンの街角でパラソルの下、怪しげな鍋からよそわれて、プラスチックか金属のチープなお椀に入って出てくる正体不明の麺。タクシーの運ちゃんも地元のおっさんも若者たちもすすっている姿がやけに旨そうで、意を決して食べてみた丁度2年前。どことなく甘塩っぱい味付けは日本料理に通じるし、多少泥臭さは気になるけれど魚出汁のスープは馴染みのある旨さ。

タイやインドで強烈なハーブ、スパイスを効かせた刺激の散弾銃みたいな料理に触れてきた旅する大学生にとって、郷愁すら覚える味わいは逆に新鮮だった。

かといって、日本の何か特定の料理に似ているわけではない。ただ、どこかで食べたことがあるような、ないような、そんな親近感を覚える。

正体はなんと、鯰の出汁なんだと。確かにあまり馴染みがない食材である一方、実際に食べて親しみを覚える味わいなのだから、やはり魚出汁文化なんだなあ。

日本国内でこの味にありつけると聞いて、駆けつけたのがこのガード下にある小さな食堂。日本人よりもミャンマー人のお客さんが多いし、日本向けに忖度されていない味付けは、まさに現地仕様。

発泡酒に限りなく近い、シャバシャバのミャンマービールで、濃厚な魚介スープの口直しをすれ ば、気分は遠く離れた熱帯アジアにひとっ飛び……!

コロナであろうとなかろうと、しばらく渡航が難しくなってしまったミャンマー。

大丈夫、きっといつかまた行けるはず。それまでは、東京のヤンゴンで思い出の味にお金を落とそうじゃないか。

[路端のブランチ 序文]

 日曜日、時計を外す。
 そろそろ昼飯を食っておこうとか、もう帰ろう、とか考えることすら億劫だ。あまりに遅刻癖が治らないから、仕方なく間に合わせのチープカシオを平日だけつけるけれど、基本的には時計を見られない。類は友を呼ぶというが、周りもそんな輩が不思議に多い。
 そういう奴らと遊んだり、野暮用を済ませたりすると、自ずと昼飯はグダラグダリとしてしまう。開店前に並ばなきゃいけない飯屋に休みの日を使ってわざわざ行くなんて、僕らの頭には浮かばない。
 時間を気にせず、その時いた場所でサクッと食うメシが一番だ。   ivy