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中村圭甫さん(カメラマン)

オトナリコーヒー福岡の取材の撮影担当をしているカメラマンである、中村圭甫さん。

地元が福岡県の彼は学生の頃から旅に目覚め、自転車で日本を縦断した後、旅の途中で出会った北海道のゲストハウスで就職。そして、2020年に再び世界を旅する計画を立てました。しかし、コロナが流行したことで出国を諦めざるを得ず、地元の福岡でカメラマンとしてのキャリアをスタートさせたのでした。

そんな彼の生活にはいつからかコーヒーが共にありました。

実は最も身近に取材できる人がいたのです。今回はカメラマン中村の自宅にお邪魔して詳しくお話しを聞くことにしました。

インタビュー:Hiro Nana
撮影:daisuke noda.

旅と共にあったコーヒーとの時間

—よろしくお願いします。それでは、早速。

いつもコーヒーを飲んでいる圭甫ですが、コーヒーを好きになったきっかけはいつだったのでしょうか。

最初は全く飲めませんでした。

大学生の時に旅にはまってヒッチハイクをしながら旅をしていたんですが、乗せてくれる人がコンビニで休憩する時に缶コーヒーをよくくれたんです。

僕はその頃飲めなかったので、好きになれなかった。

旅にハマる学生にはよくある話かもしれないなのですが、旅が楽しくなると学校に行かなくなるんですよね。僕も学校に行かなくなって、学校生活でもいつも旅のことで頭がいっぱいでした。旅に出たいなあと考えにふけっている自分に酔ってコーヒーを買ったりするんですよね。(笑)

男にはそういうことがあると思うんですけど。

—学生から吸っちゃうたばこみたいな感じ?

そうそう。そんな感じですかね。コーヒーを飲みながら早く旅に出たいなあ、と旅の面白さを思い出していました。

そうしているうちに飲めるようにはなりました。

その後、21歳のときに自転車旅を始める際には、インスタントコーヒーを持って行くようになりました。

スタートして1ヶ月程経ったとき滋賀のカフェで居候させてもらった時期がありました。オーナーと顔が似ているというだけの理由で知り合いにそのお店を紹介してもらったんです。直接お会いした後、いろんな巡り合わせがあり、泊まらせていただくことになりました。

そこではスペシャルティコーヒーを扱っていました。エチオピアのイルガチェフェのコーヒーだったと思うのですが、初めて飲んだその味が衝撃でした。それまで知っていたコーヒーとは全く異なり純粋に美味しいと感動しました。そこで、いろんなコーヒーがあるということを知りましたね。

それからはインスタントではないコーヒーを飲むようになっていきました。

中村圭甫さん

北海道から折り返して東京までたどり着いたときにインスタでフォローしてくれていた方から渡したいものがあると連絡がありお会いしました。その方が、スタバのコーヒー豆と旅で使えるような持ち運びのできるドリッパーをくださったんです。それからはそのドリッパーを利用してコーヒーをいれるようになりました。

旅が終わってからは家の近所のコーヒー豆屋さんに買いに行くようになりました。

当時祖母の家に住んでいたのですが、祖母の家にあった昔のカリタの手挽きミルで豆を挽くということも始めました。

その後、大学を卒業して北海道のゲストハウスに就職しました。

ゲストハウスの隣に昔焙煎所だった場所があったのですが、そこのご主人と交流をしているうちに焙煎って面白そうだなと興味を持ちました。そこで焼かせてもらうことはありませんでしたが、自分で調べてみたらフライパンや手網でできるということを知り、自分で豆を焼き始めました。

ゲストハウスでは2年間働きました。

辞める半年前くらいのことです。ゲストハウスの近所のコーヒー屋さんで期間限定のゲストビーンズとして「ガルテンビコーヒー」※1のコーヒーを取り扱っていました。飲んでみたところ美味しかったんです。そこで連絡先を教えてもらい、直接連絡を取り、ゲストハウスに招待をしてクリスマスのイベントでトークイベントと、コーヒーを提供してもらいました。

彼はエチオピアから直接豆を買い付けて輸入し、全国のコーヒー屋に卸していて強く興味を持ちました。それ以来、個人的にも繋がりができました。

ゲストハウスを辞め、福岡でカメラの仕事をし始めたときにまずは知り合いに撮らせてもらおうと思いました。

そこでガルテンビさんに声をかけました。撮影をするから交通費だけもらえないだろうかというのがはじまりで。そしたら撮影した写真を気に入ってくれて、今後は一緒に面白いものを作っていこうと言ってくれたんです。それが個人事業主としてスタートした1ヶ月目の時でした。

同じタイミングでオトナリコーヒーの仕事をいただいて、ガルテンビコーヒーとオトナリコーヒーの2つの方向からコーヒーの知識を深めていっています。

自分自身でも手網焙煎を続けています。

※1… エチオピアの輸出を行ったことのない生産者から直接輸入販売をしているコーヒー生豆店。

—マンカシャカシャ※2試しました。手網では焙煎をしたことがなかったのですが、意外に美味しく焼けて楽しかったです。

手網焙煎でうまく焼けたときは本当に美味しくて。友人を招いた時にコーヒーを焼いて飲んだりしています。

以前は、コーヒー豆がそもそも赤い実だったということや、生豆の状態を経てできるということを知らなかった。意外とみんな知らないんですよね。だからコーヒーができるまでの過程を共有するのが楽しくてみんなで焼いたりしているんだと思います。

※2…ガルテンビコーヒーが販売しているエチオピアで実際に使用されている手焙煎パン。

—作るまでの過程の方に興味があるんですね。

旅が好きだから生産地の話を聞いたり、知らない土地のことを聞くのが好きということでしょうか。

そうですね。

現在、スケールは持ってないのですが、それらをしっかり揃え始めると研究したくなってしまうと思うんですよね。

MANLYCOFFEEさんの取材の時にエアロプレスのAesir Filter※3を購入して使ってみたら味が全然違いました。そういう違いに気づくのが好きなんですよね。

今はハリオのV60を使用していますが、カリタウェーブも気になっていて買ったら面白いんだろうなと思うけど敢えて広げてないんです。

今はいいかなと、いずれ買っちゃうんでしょうけど。

※3…カナダのEldric Stuart氏が開発したエアロプレス専用のペーパーフィルター。彼はカナダで開催された2016年のエアロプレスチャンピオンシップで優勝している。

—凝り性なんですね。コーヒーは好きになってからずっと側にあるんですね。

札幌に住んでいるときもほぼ毎日飲んでいたし、そのあと沖縄に滞在していたときにもエアロプレス一式持って行って豆も焼いていました。

いれる時間が好きなんですよね。無になれる時間。

焼いている時間もとても好きで豆の色の変化を眺めている時間とか、「瞑想」のような時間というか。

—窮屈でなく、自由でいいですね。あるがままの感覚を好きというのも気持ち良い。ー人の時間が好きなんですか?

一人は好きではないんですよ。

ただ、自分に集中するときに自分自身についてフィードバックするようにしています。

海にいるときや運転する時間やコーヒーをいれる時間などがその時間ですね。

家に一人でいるときは何もしないんですよ。

だらだらして、スイッチをとことんオフにしてエネルギーチャージしていますね。

人と会うのは楽しいし好きな時間。

出るところは出る、抑えるときは抑える。自分に余白を作って常に自分を切り換えできるようにはしていますね。

お店巡りもいろんな情報や空間に触れるのも好きです。

家では、ガルテンビさんから買っているエチオピアのコーヒーばかり飲んでいるのですが、お店では違う産地のものを試すようにしています

美味しいものが飲めるのがお店のいいところだし、カフェに行くのも、その空間も好きですね。

Galitebe Coffeeさんのコーヒー

旅するカメラマン
写真に捉われない仕事作り

—元々、写真は好きなのは知っていましたが、カメラは仕事にしたいというのがもともとあったんですか?

そうですね、いろんなところに行って仕事になるし、いろんな風景を見て撮ってそれをいろんな人が見てくれるというのがいいなと思っていました。

それをお金にするってどうするのかなとは思っていたんですけど…

根本的な理由としては、世界旅に出れなくなって地元に帰ってくることになってしまったときに、今更履歴書持って行き面接して仕事をするというのが無理だな、と。

それと、いつかは自分で仕事をしないとな、という意識があったんです。

このタイミングでできることはカメラかなと思って小さな規模から始めたという形です。

—カメラ以外にもいろんなことしていますよね。

デザインに触れたり、本を作ったり、イベントの企画に携わったり…いろいろしていますね。

0から1に関わることが多く、声をかけていただくことが結構あって、経験豊富な人に囲まれる機会も多いです。これは自分にとって本当に恵まれた環境だと思って感謝しています。

—できそうと思われるんですね。

やろうよと言われたら新しいステージが見える機会だし、縁があるから物事が進むと思うのでとりあえずまずチャレンジするようにしています。

基本的に全ての人は何事においても素人から始まるのでできないことはないかなと思ってしまう方で。

—カメラを始めてどれくらい経ちましたか?仕事のスタイルには理想がある?

仕事にして1年3ヶ月くらいですね

少し前までカメラの仕事は続けなくていいかなとも思っていたんですが、楽しいし、撮れるものが増えてくると同時に面白さも増える。

今後は自分のやりたいことにも時間を充てたいなと思っています。具体的には、今は雑誌やパンフレットの作成をしていて、将来的にはお店もやりたいなと思っていて。

ゲストハウスでの勤務が影響しているんですが、「人が繋がる」場所、アジトのような場所をやれたら最高だなと。こればかりはタイミングなので40歳くらいになったらやりたいなあとか。

仲間とともに作るカルチャー誌「KEEP ON…」を発行。

—経験が活きているんですね。

ネットなどの媒体で自分の情報や写真をあまり載せていないんですよね。今は人からの紹介がメインで仕事を受けています。

媒体には情報を出そうとしたんだけど、煩雑で諦めちゃった。

わかりやすい流行りやおしゃれさのある写真専用のアカウントも使い分けられないので向いていないんです。

—確かにイメージではないですね、よりコミュニケーションを取りながら仕事をしている方が圭甫らしいと思います。

そうですね、初めて会った人でもそれからしっかりコミュニケーションを取った上でまた仕事をいただくという流れもありますね。

—今の時代ではそのような形が多くなっているんでしょうね。

知っている人の得意分野があればその人に頼んだ方がお互いの利益や経験になるし持続可能な関係性となりますよね。

はい。その方が強みになるとは思いますね。

—元々、世界を旅する予定だったんですよね。それができなくなってしまってまた旅をしたいなと思わないですか?

仕事で行けたら行きたいです。いくつか依頼はありました。

僕の周りではやりたいことを仕事にしている人が多くて、単純に商品写真だけではなく「オーダーメイド」な撮影の依頼も多いんです。多様な場に対応できるという強みを活かして、仕事の一環でいろんな場所に行けたらいいかなと思っています。

—本当にジャンルレスですね。

一部の世界しか知らないと仕事において知らないジャンルの仕事が来たときに対応できないということも有り得るし、知っていた方がより面白いものができたりする。

自分自身の勉強のためだし、多種多様な人に会うこともその為ですね。人からよく「知り合いの幅が広い、ジャンルが多様すぎるよね」と言われます。

誰でもできることではない、旅をしていた経験があってそこが強みというか僕らしいのかなと思っています。

和歌山県でキッチンカーの製作風景を1ヶ月ほど車中泊しながら撮影していたんですけど、製作中にひどい粉塵の中で撮影したりして…面白いからやっているんですけど、「なんでこんなことしてんのかな」と思ったりするんです。そんなことを現場のみんなと楽しみながら撮影するのが好きですね。カオスな状況を乗り越えるのが好きなんだと思います。今のこの状況面白いなと思いながら。(笑)

中村さんが撮影したキッチンカー製作風景。和歌山県橋本市、studio SENSEにて

—自分の状況を俯瞰しているんだ。自分自身の知識欲も強いし、偏見とか苦手意識がない方ですよね。

年齢も性別も関係なくいろんな人と話せるイメージがあります。

どういうものがあってもそれも良さかなと思います。

どんな場でも見ているだけで面白いと感じるからよく観察していますね。

本当にいろんなタイプの人がいるし、どんな人でもフラットに見れるというか…その点、相手にとってもそのままの気持ちを伝えて受け止めてもらえる感じてもらえているのかもしれませんね。

—苦手なことはある?器用なイメージがあるんだけれど。

気を使うことは苦手ですね。

僕自身が気を使わなくていいと思うタイプなので…例えば、「荷物持ちましょうか」とか「飲み物つぎましょうか」とか…

海外の人と一緒に過ごして仕事をしていると、そういうものがないじゃないですか。それが心地よかったし。

今になってそういう場面に居合わせる機会が増えたので見ながら勉強していっていますね。

多拠点生活で生まれた
「帰りたい」と思える場所

—現在、福岡と関西の2拠点で仕事をしていますが、様々な場所で仕事をするというのはどうですか?

それぞれの土地によって、文化やうまくいっていることとそうでないことが違うんです。

その生の情報を目で見て学べること。いま、そういった環境でお仕事をさせていただいていることはすごく価値のあることだと思っています。

来年の春には写真展をしたいと思っています。

福岡、関西、札幌とまた帰りたいと思える場所があるので、あとは東京でもできたらいいなと思っています。

写真展というと、写真だけ飾っているだけのことが多いけれど、それぞれの場所で知り合いがいるのでそれぞれの土地でコラボイベントとして開催をしたり、ご縁のあるお店に飾らせてもらうということをしたいと思っています。

写真自体は数枚を大きく刷って展示したい。この額縁よりも大きなサイズ。

—常に何かを計画しているね。

1年目はとにかく仕事が欲しくて動いていたので、今年は自分のことにも目を向けていく一年にしたいですね。自分をアウトプットしていくことを意識していきたいですね。

自由な発想や感性を持ち、「カメラマン」という職業や概念に捉われずに仕事をしている中村さん。

彼の行動力や考え方にはいつも驚かされています。何より全て楽しんで取り組んでいるところや、一度でも縁のあった人たちとの関係を大事にし、継続できるところが良いなあと思っています。

そんな一面を改めて掘り下げられてますます彼のこれからが楽しみになりました。そして、今後のオトナリコーヒーの写真も。

中村圭甫:https://www.ksknakamura.com/
和歌山県橋本市の移動販売車製作スタジオ「studio SENSE」 https://www.studiosense.jp/
KEEP ON..を発行しているチーム「GUNJYOUMARU RADIO」
 https://www.instagram.com/gunjyoumaru_radio2021/?hl=ja