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SKY BLUE COFFEE ROASTERS

札幌市白石区にあるSKY BLUE COFFEE ROASTERSさん。

以前、北海道の友人からこちらの豆をいただいて、とても美味しかったことを覚えており、お話を聞いてみたいと思っていたお店です。

店主の矢野一夫さんは、先日のSCAJの大会にも出場されており、大会への出場や資格の取得、講師業など非常に多くのことに取り組んでいらっしゃってとてもストイックな印象を受けています。

今回は矢野さんにインタビューをし、お話を伺いました。

インタビュー:Hiro Nana
写真:唐川貴帆

広告営業マンから飲食業界への転職
経歴を活かしたコーヒー店経営術

―コーヒーを始められたきっかけやその転機を教えていただけますか。

元々、大学がデザイン系の学科だったのデザイナーやグラフィック関係の仕事や広告代理店のような仕事を希望していたのですが、なかなか就職先が見つからず、最初は目指していた業界とは異なる不動産関係の仕事に就きました。それからもデザインや広告関係の仕事を諦めきれず、転職活動をして広告代理店に転職することができました。

広告代理店には6〜7年いたんですが、その時の取引先のお客さんに通信と飲食の分野の会社がいらっしゃいました。

その会社の飲食部門に転職したのがコーヒーに携わることになったきっかけです。

広告代理店の仕事は一見華やかですが、実際のところ体力的にも精神的にも大変な仕事でした。労働環境の厳しさから、この先この業界に居続けて大丈夫なのだろうかと考えていた頃、その会社とご縁がありました。

その時は通信関係の部門か、飲食の部門かの二択の中で飲食を選んだというだけで、喫茶店で働いたこともなかったし、コーヒー屋さんに行く習慣もありませんでした。

ですので、今までコーヒー業界の中でやってきた方や独立された方から比べるとキャリアとしては変わっているし、実際独立するまでいけるのかなという感じでしたね。

店主の矢野一夫さん

―そこから、コーヒー一本でやっていこうとなったのは、その頃からご自身のお店が欲しいという目標だったんでしょうか?

最初は全然考えてもいなかったです。以前の会社には10年間勤めていて辞めようか思うこともありましたが、続けていくうちに自分のキャリアになるような経歴がついてきてこのまま続けてみようと思ったのがきっかけですね。40歳を過ぎたら会社から出て自分で何かやってみようと思っていたんです。でもそれは、とりわけコーヒー屋さんでなくてはいけないという風に思っていたわけではありませんでした。

結果として、一番長く続けてきたことだったので自分の中である程度は確立できるのではと思ってコーヒー屋を開くことにしました。

―それでは、コーヒーの仕事として携われてきたのは長いんですね。

コーヒーという仕事に携わってからは13年が経ちましたね。

最初は、以前の会社に入ってから地元のコーヒー屋さんと連携し、コーヒーの知識の初歩的な部分から学ばせてもらいました。お店で働くというわけではなく勉強のために行っていました。

当時、会社が元々やっていたコーヒー店がありそこに配属される予定でしたが、業績が思わしくなくて閉めてしまったんです。会社としては再びコーヒーを扱う飲食店を開くという意向がありましたが、それまでの間、どこで何をするかという状況になり、しばらくは自分で飲食店を探してそこで働きますという話をして、会社の協力は得ながらも自分で働き先を探していくつかの飲食店で出向のような形で働きました。

その中でコーヒー豆は必ず売るという条件の元で何件か店舗の立ち上げに携わることもありました。

―コーヒーそのものだけではなく飲食店経営の部分から携わってきたのですね。

そうですね。現場仕事が多かったですが、飲食店全体に携わってきたという感じです。

―そこからどのように焙煎の道に進んでいったんでしょうか。

東京に出向していた時に北海道に戻る話が持ち上がりました。

戻ってくるのであれば、いよいよ会社で新たにコーヒー店を立ち上げようという話になりました。

コーヒー店をするのであれば、自家焙煎でやりたいと思ったので自分が焙煎を始めるという条件で戻ることになりました。

それから、焙煎を始め6年ほどになります。

―資格もたくさんお持ちですよね。大会などの実績からもストイックな印象を受けます。

僕は、入り口が周りの方とは違いますからね。

元々、サラリーマンで営業の仕事が長かったので、ものを売るためにどうしたらいいのかということを考える方が得意なんです。どちらかというと飲食店の接客も苦手でして。

自分のコーヒーを売るためにどうしたらいいか考えた時、実績もなくて何もわからない人からものを買わないと思ったんです。

ある程度の知識や資格があれば、有名店ではなくても買ってくれる可能性や確率が上がるのではと考えたのが、資格取得に力を入れた理由の一つです。

また、それらは他人が評価することですので、自己満足や自分自身の評価のためにしているのとは違います。

大会に出ることも同様です。

そういう意味では、技術の向上というよりは商業的な視点から取り組んでいます。

他のコーヒー屋さん、特に自家焙煎のお店ではそんな風に考えている人少ないかもしれませんね。コーヒー店経営に関しても事業として取り組んでみたかった。

―お店がある白石区という場所は街からも離れており、交通の便も良いとは言えませんが、この場所を選んだのは焙煎所を作るためでしょうか。

そうですね。飲食店を作るのではなくて焙煎所を作ろうと思ったのが理由です。また、実際なかなか良い場所が見つかりませんでした。

本当に良いものというのはどこでやっても流行るかもしれませんが、マーケットとしては良いと言える場所ではないので特にコーヒーのような嗜好品のお店を白石区で開業される方は少ないとは思います。

この物件の条件が良かったんです。改装などは自由にできて退去の際にも現状復帰しなくて良かったので。ここで勝負するということを最初は考えてもいなかったことですが、地域に受け入れてもらえるようにと開店当初はご近所にサンプルのコーヒーを配ったりもして、今はお客さんも多くついてくれています。

シェアロースターや競技会への参加
北海道のコーヒーシーンの牽引

―お店をされながら、専門学校の講師もされていると聞きました。お忙しいですよね。

はい。前任の方からの紹介で講師をしているのですが、多い日だと週に4回は授業に出て今ます。

―加えてシェアロースター※1も行われていますが、札幌のコーヒー屋さんやコーヒー屋さんを目指す方々に対して教育に力を入れたいという思いをお持ちなのでしょうか。

自分自身が苦労した分だけ、周りでやりたい人がいたらできる範囲でやってあげたいとは思っています。

僕が開業してから、およそ4ヶ月後にコロナが流行ってしまい、苦しい状況の中でやってきました。ですので、開業を考えている方も少なくなり、途中で諦めてしまう方もいます。スモールビジネスですので最初から儲かるものではないし、焙煎機などの初期投資も大きい事業ですからね。

シェアロースターに関しても東京のようにメーカーさんが進んでやるというレベルではなく、札幌では他にやっているところはありません。

マーケットの取り合いになった時にライバルを作ってしまうだけなので、自分のお店で手一杯なのにそこまでやっている場合ではないという人の方が多いと思います。

―それが北海道のコーヒーシーンの現状に繋がりますかね。

そうですね。

チャンスの数を考えたら北海道は絶対数は少ない。東京や大阪福岡の方が確率は高いです。競合は多いですがその分機会も多い。

こちらは、下が育っているようで育っていないですよね。年代別でも薄い層が結構あったりします。

かといって、僕たちは資金力があっていろんなことをやってあげられるかというとできないので、自分たちで頑張ってもらうしかないんですよね。

ただ、できる限りのことで助けてあげられるなら助けてあげたいという感じです。

―前回のインタビューでサルバドールコーヒー※2さんから似たようなお話しを伺いました。

下の世代の方に関わってくれる方が増えて良い流れが生まれていることは嬉しく思います。

※1…焙煎機の時間貸しをするサービスのこと
※2…前回のインタビュー「Salvador Coffee」さんをご覧ください。

―先日、SCAJで開催されたRMTC(ロースト マスターズ チーム チャレンジ)※3では北海道チームは入賞されましたね。とても興味深い競技会ですが、詳しくお話しを聞かせてください。

競技会が開催される際に募集をかけられエントリーをするのですが、参加メンバーが決まったら話合いをしてリーダーを決め、どのお店でミーティングをするのかどこで焙煎をするのかを決めます。

開催者から課題が出され、提示された豆を用いて焙煎をして大会に臨みます。

参加メンバーは毎年概ね決まったメンバーが集まるのですが、みんなそれぞれ焙煎をしている人が集まり、参加人数は6名と限られます。

各地域ごとにチーム参加になりますが、北海道は5、6年前から入賞できておらず苦しい状況でした。

―北海道からはいろんな場所から参加されていますよね。関東や関西とは異なり集まるのも大変ですよね。

ニセコのお店、ここと同じ白石区にあるお店と僕が毎年出ていました。

僕は4年間出場しています。

毎年参加メンバーが決まってから焙煎する場所を決めますが、どこにするのかが重要になります。

実際に大会に提出する豆をどこで焙煎するのか。それまでに何度も集まり実際に焙煎し、検証を繰り返していかなければなりません。

使用する焙煎機の関係もあるので、必ずしもメンバーみんなが来やすい場所でできるかというとそうでもない。仕事をしながらの時間を作って集まらなければいけないので泊まりになってしまう場所だときつい。

どこであれば都合をつけられるかを話し合い、前回は苫小牧のお店で集まりました。

―皆さんそれぞれ使用する焙煎機が違いますからその難しさもありますよね。

そうです、焙煎機もローストの仕方も違うけれど、同じ豆に対してみんなで良いものを作ろうという流れなので意志の統一が大事です。ですが、それは大変というか新鮮なことです。

そうして今年は2位に入賞することができました。

―大変な苦労もある中でようやっと入賞されたのですね。おめでとうございます。これからも参加していこうとお考えですか?

僕はこれで卒業しようと思っています。

4回目でやっと入賞できましたし、人数制限があるので僕がずっと参加し続けてしまうと他にやりたい人が参加できないので。

人数が足りないとかうちの焙煎機を使って検証したいとか、どういうことやればいいのか教えて欲しいというのをチームに頼まれた時にはぜひ協力してサポートをしたいと思っています。

チーム戦は一区切りですが、個人戦があるので機会があれば出場したいですね。

現在大会で使用されている機種はGISEN※4で、うちと同じ焙煎機ですので、自分が得意な焙煎機を使用されているうちに出られたらと思います。

※3…日本スペシャルティコーヒー協会が主催する年に1度開催されるコーヒー豆や器具の展示・販売会。各種コーヒーの大会も開催される。RMTCはその大会の一つで全国のエリア別で焙煎者がチームを組み焙煎技術をきそう競技。
※4…オランダ製の焙煎機。

―GISENの焙煎機はどんな感じでしょうか。

PROBAT※5の派生でPROBATの下請けであった会社が作った焙煎機です。蓄熱性に優れていて、様々な箇所を稼働させられるのがメリットですね。

釜の回転数や内圧などを変えられるので表現や味作りに幅が広がります。

―色々試せるのが楽しそうですね。お店で売られている豆は何種類程ありますか?

今はブレンドを入れて7種類あります。

ラインナップが変わるのは大体2ヶ月ごとだとか、こまめに買っているので1ヶ月で変わったりもしますね。

―先日、福岡でもゲストビーンズとして取り扱っていて飲ませていただきました。美味しかったです。北海道でも美味しい浅煎りの豆を扱うお店が増えましたね。

北海道でも浅煎りは広まってきたものの焙煎レベルでいうと浅煎りではないんですよね。

色々と飲んできましたが、中煎り以上で割と深い感じの味になってしまっていて、飲んだ時に拍子抜けしてしまうことがあります。

美味しくないということではなく、それぞれ特徴があって素晴らしいのですけれど、「浅煎り」と考えた時に美味しいのかというとそこはまだまだ難しいのかなと思います。

お客さんがどこまでそれを求めているか、お客さんがそれをどう判断するかということはまた別なのでお店の流行りと味というのは別の話になります。

ただ、焙煎に関しては、細かく計算してプロファイルを作成して焙煎すれば良いというものではなく、意図をしっかり持って焼いている人とそうでない人では今後の成長も違います。

とりあえず焼いているという焙煎はすぐにわかってしまいますし、同じ豆を焼いていてもブレがとても出る。

―コーヒーを飲ませていただいて、とても研究されているのだなと感じました。

自分が納得していないものは出したくはないですからね。

※5…ドイツ製の焙煎機

業界の垣根を超えること
飲食店のこれからの課題とは

―これからのお話も聞かせて頂きたいなと思います。

大会は一旦区切りとおっしゃっていましたが、今後のお店の展望についてお聞かせください。

自分でコーヒー屋さんをたくさん作って広めたいというのはあまりないのですが、新しく来年から新事業に関わることが決まっていて、その事業に加わることである程度先が見えるんじゃないかなと感じています。

就労支援の一つで障害者の雇用をする予定です。

その提携をする会社の方と僕とで話してできた目標が、東京のSOCIAL GOOD COFFEE ROASTERSさん※6のようなコーヒーと福祉を組み合わせたような施設を北海道でも作りたいということです。

単純にお店を広げるというよりコーヒーの事業で違うことができないかなというのを常に探しています。そして他分野の会社や相手をどう上手く誘っていくか、組んでやっていくかを考えています。

―面白いですね。今までになかった視点です。

北海道は良いものを作っているのは確かです。素材にも恵まれている。なので、北海道の物産展が道外で開催されれば、人が入るし売れますよね。

ですが、道内ではそこに需要がないために外に売り出すしかない。

北海道という土地にはどうしても気候の問題や地域性で難しい部分があります。

気候によるハンデはコーヒーにおいてだけではなく、他の業種や流通そのものにも影響します。その中でどうしていくのか。

となると、他の業種の人と互いの問題への理解を深めていけたら解決方法も広がるんだと思います。

学校で教えていても、生徒たちの就職の窓口がコーヒーだけというのはなかなかない。それでも、うちの学校については入学をする生徒は増えています。ですが、就職先が増えているわけではないので、せっかく学んでいても仕事にならないと諦めてしまう人が多くいます。飲食業界自体が厳しいです。

それが改善されていくような土壌になれば、コーヒーだけではなく飲食業界に携わる人材も育つのではないかと思います。

※6…東京都にあるハンデキャップを持つバリスタや焙煎士が活躍しているロースタリーカフェ。

お話を伺う前からのイメージの通り、ストイックで勢いを感じさせる仕事人というのが矢野さんの印象でした。様々なことに取り組み実績を残されているにも関わらず、ご自身ではまだまだ次の展開を見据え続けていらっしゃいます。

各地域によって業界の形は様々ですが、北海道という土地柄から抱える問題に対し、飲食業界の垣根を超えて仕事を創造するという視点は新鮮でした。

次回、帰省する時にはお店に伺い、矢野さんご本人に直接お会いしてその後についてお話を聞いてみたいと思いました。

矢野さん、ありがとうございました。

SKY BLUE COFFEE ROASTERS
北海道札幌市白石区平和通16丁目北5-20
営業時間:火曜〜木曜8:00~16:00、金・土曜11:00~19:00
定休日:日・月曜日
instagram:https://www.instagram.com/skybluecoffeeroasters/