MÖWE COFFEE ROASTERS
今回は、高円寺のロースターMÖWE COFFEE ROASTERSさんの焙煎士であるまこさんにお話を伺いました。
創業は2020年、高円寺駅から徒歩で2,3分ほどの場所にあるカウンターメインの小さなお店です。
若手のロースターの中でもコーヒーの大会などに出場しつつ、
コーヒー以外の活動も盛んな印象があるお店で、焙煎をされているまこさんのお店やコーヒーに対する考え方に興味がありました。
インタビュー:しば田ゆき
「コーヒーは、カウンターを囲んでバリスタとお客さんがお話しながら飲むもの」
ー今日はよろしくお願いします。
早速ですが、まこさんの今までの来歴を教えてください。
高校を卒業してから地元・京都の老舗の大きな喫茶店に入社しました。そこはコモディティからスペシャルティまで幅広いグレードのコーヒー豆を取り扱っていて、地元のおじいちゃんとかも毎日来るし、海外からの観光のお客さんも来るようなお店で下積みをしました。当時はコーヒーの知識もなくカフェでの接客経験も無かったので、そこで言葉づかい、お辞儀のし方などを一から学びました。
また「カフェっていうのはお客さんがゆっくりしに来ているスペースだから、席にオーダーを取りに行く時や品物を持って行く時にも『その空間にお邪魔しますよ』という意味で『失礼します』って声をかけてから近寄りなさい」とか、サービススタッフの心構えなんかも、ここで学んだことが今も軸になっています。
ーすごくしっかりしたお店ですね。
そうですね。京都で有名なお店っていうこともあり、お客さんの年齢層が高く、
礼儀やマナーは結構厳しかったです。
バーカウンターの奥にバリスタが立っていて、常連の方はカウンターに座ってお話しながらコーヒーを飲む、喫茶店でありながらイタリアンバールにも近いようなスタイルのお店でした。
初めて働いたコーヒー屋さんがそういうスタイルだったので、コーヒーは「カウンターをかこんでバリスタとお客さんがお話しながら飲むもの」っていうイメージが最初から強かったですね。
その後東京に旅行に来た際に、浅煎りのエスプレッソとかサードウェーブスタイルのHARIOのV60※1で淹れたドリップコーヒーを飲んで、「私浅煎りがすごく好きかも」って気づきました。
※1.HARIOのV60…ハリオの商品で、ペーパードリップの器具の名前。海外のカフェでも多く使用されている。
ー当時きっとまだ少なかったですよね。
少なかったですね。東京でもまだロースターがたくさんあるわけでもなく、もっと言うと京都なんてシングルオリジン※で浅煎りのエスプレッソを出しているところなんてほとんどなかったです。地元に帰ってからも「またあの味が飲みたい」みたいになって、自転車で京都市内を駆けずり回って探すみたいな感じで。
それで自分で飲みたいから焙煎しようって手網焙煎機を購入したのが焙煎を始めたきっかけです。
※2.シングルオリジン…産地(農園)が単一で、ブレンドされていないコーヒー豆のこと。
京都のお店はハンドドリップが人気の喫茶文化なので、サードウェーブの勉強をしたいなって思って東京に出てきました。
二十歳の頃に東京に出てきて、大手企業のシングルオリジンのエスプレッソを使った高級志向のお店に入りました。オープニングのお店だったので、店舗が出来上がる前からトレーニングルームでハンドドリップのレシピを考えたり、何杯もエスプレッソを抽出したり、オペレーションを組み立てたりと、とても貴重な経験ができました。
ただ、自分が配属されるはずの店舗がなかなかできず、言われるがままに他店の立ち上げに携わり勤務していましたが、結局配属店舗の開店の話は立ち消えになってしまい、退職して一旦地元に戻りました。
そこで今のパートナーにであって、一緒に「東京のコーヒー文化すごくおもしろいよ」って言ってまた東京に出てきましたね。
ー京都のハンドドリップが馴染んだコーヒー文化を選ぶのではなく、新しいコーヒー文化のたくさんある東京を選んだのはなぜですか?
技術的に京都で学べないものを学びたい、修行したいなって。それと、現実的な話ですが東京の方が仕事がたくさんあるので。
その後外資系のサードウェーブスタイルのコーヒー屋さんに入社して4、5年勤めました。外資なので自由な社風で。日本のよくある「髪色は何番のカラーまでしかだめです」とか「シャツは第一ボタンまで閉めて」みたいな1人1人の個性をなくしてマニュアル化させるような企業よりは働きやすかったですし、バリスタも割と自然体にリラックスしてそれぞれの思うホスピタリティを発揮できるように感じました。
ーその後お店を開店するまでの流れを教えてください。
ただ、自分のお店を持ちたいという気持ちはずっとあったので、働きながら自分でコーヒー豆のオンラインショップを運営し、並行して店舗物件も探していました。良い条件の物件が見つかるまではすごく時間がかかったのですが、たまたまご縁があって高円寺の物件を紹介してもらい、すぐに気に入って契約しました。物件が決まってからはとんとん拍子で話が進み、3か月後にはもうプレオープンしていました。
ーMÖWEさんのコーヒーのことを教えてください。
MÖWE COFFEE ROASTERSさんではまこさんが焙煎をしていらっしゃいますね。焙煎をする時に具体的にこういう味にしたいなどのイメージはありますか?どこにフォーカスをしているのかや、なにを目指しているのかを教えてください。
味のバランスは大事にしていて、酸がありながらも甘さのしっかりあるコーヒーにしたいなと考えています。
浅煎りのコーヒー苦手だなって思っている人って酸味が支配的なものを飲んで苦手だと思う人が多くて、そこに甘さがあるとただ酸っぱいだけというふうには感じないんじゃないかなと思うんです。実際に甘くてバランスのいいコーヒーだと「飲みやすい」とか「これだったら飲めます」とかいってもらえるので味のバランスはすごく大事にしています。
ー甘さと酸味のバランス。苦味はない方がいいっていうイメージですか?
私が苦味とか渋さとかのネガティブな味わいに敏感で、それがあるとそこにひっぱられちゃって他の味がわからなくなりやすいんですよ。だから苦さはあまりなくて、あってもほのかに。なので焼いても中煎り、中深煎りくらいまで。二ハゼに入って以降の深煎りは焼かないですね。
ー今まで飲んだコーヒーでこれが理想的だと思うコーヒーってありましたか?
好きなのはWEEKENDERS COFFEE※3です。お店の人の「こういう味が出したい」っていうのが強く伝わってきました。あとは京都のカフェタイム※4。あそこのオーナーさんは人としても尊敬している方なんですけど、よくコーヒー生産地に行かれるので、カフェタイムのコーヒーを飲むとめちゃめちゃ美味しいんですけど、同時に親しみやすさを感じます。たまにお野菜とかを「わたしが作りました」って書いてあることあるじゃないですか、農家さんの写真が貼ってあって。そんな気分になったんですよ。
※3.WEEKENDERS COFFEE…京都市のコーヒー焙煎屋さん。
※4.カフェタイム…1985年創業の京都のスペシャルティコーヒーを取扱う会社。
ーおもしろい。その方が産地の人のことを知ってるからこそ伝わるものがあるんですかね。
あるんですかね。顔が見えるような…うまく説明できないんですけど。
「喫茶文化とサードウェーブの文化が融合したもの」
ーコーヒーの思想としては一番長くいた外資系のお店に影響を受けている部分は大きいですか?
それまではずっと、お店には”一番えらいバリスタ”がいて、その人が飲んで「これなら出せる」とか「これはまだまだだ」といった感覚だけで修行するみたいな、コーヒーってそういうちょっとスピリチュアルで職人的な世界なのかなと思ってたんですね。
でもそこはバリスタが何人もいる会社だったので、感覚だけではなく数字を計ったり器具をしっかり用いて数字で全体的に味を共有しましょうっていう感じでした。
もちろん味の判断もあるんですけど、数字があるから誰が見ても納得しやすいし、教育とかオペレーションとかを考えた時に効率的でみんなが納得して働きやすいやり方をしてるので、それはすごくいいなって思います。数値ではっきりでるので、自分ができてるのかできてないのかっていうのが人間関係に関係なく立証しやすいっていうのはあって。
ーたしかにそうですね。
それまではバリスタに立つポジションは限られた人しかできなくて、先輩の許しがでたらやっと練習させてもらえるみたいな体育会的なスタイルだったんです。だからそこではバリスタに立つためのプロ意識とかモチベーションをすごく持てたからよかったんですが、伝統工芸とかも一緒なのかなと思うのですが、「見て盗め」みたいな感じで。
東京の大きいお店でお客さんがたくさんいて、いろんな人がコーヒーいれないと賄えないみたいなお店ではそのスタイルではなかなか難しいのかなというのもあります。だけど誰でもいれられるっていうのもまたちょっと違うなとも思いつつ、そのバランスが難しいなと思っていましたね。
ー伝統工芸にありそうな精神世界的な良さもあるし、揃ってみんな同じラインで始められるっていうのもいいよねと思います。そのバランスって難しいですよね。今はどう思ってますか?
今はもう自分のお店なので、私が納得いくまで出さないです。
私はまず抽出する前に接客を学んで知識を学んで、準備ができてから抽出のトレーニングをしてっていう工程を踏むことは大事だなと思っているんですが、時代はかなり変わってきてるのかなと思っています。
今って自分でなんでも挑戦できる時代じゃないですか。だからコーヒー屋さんで働いたことがない人も自分で開業してみたりとか焙煎を始めたりとか、間借りで割と簡単にお店が出せる。今の若い人たちを見ていると新しいカルチャーになっていってるのかなとも思いますね。だからお客さんがお店の成長を見守りながらお店がどんどん成長していくみたいな感じ。
私はどちらかというと古い飲食の考え方なので、お店にはプロが立っていて、コーヒーをあまり知らないお客様とか地元の方に知ってもらって、お店がお客さんを育てていくみたいな感覚が強いです。
でも今の若い子たちはそれはそれですごい楽しそうだし、熱量もあるし、それもひとつの時代なのかなと。
ー「お客さんを育てる」ってどういうことなんですか?
スペシャルティコーヒーってここ数年で広まったものだし、そんなにまだ知られていない。浅煎りのコーヒーをこんなに飲むのは日本でも東京くらいで、みんなコーヒーと言えば苦くて、高円寺でも「酸っぱいの苦手で…苦いのください」「深煎りをください」って言われます。
だからまずは知ってもらうところから始めなきゃいけない。こういうコーヒーがあって、うちは浅煎りが中心でやってますよって。
値段も他のチェーン店と比べるとやっぱり「スペシャルティ」で「ドリップでいれてて」ってなると高くなるので、納得して飲んでもらいたいなと思うんです。
東京のコーヒー屋さんってほとんどセルフスタイルで、レジで注文してコーヒー豆の産地情報が書いてある紙を渡されて、ひとりで座ってそれを読みながらコーヒーを飲む。口頭で説明してもらうとしてもオーダーする時に短い時間で説明してもらって、帰る時に「おいしかったです」とか声をかけるくらいの距離感で。やっぱりわたしはカウンターサービスに慣れていたのでちょっと物足りなさを感じます。
「スペシャルティコーヒーを知ってほしい」「広めたい」っていう想いが強いバリスタが多いと思うんですけど、セルフスタイルだとなかなか難しいなと。
地元で働いていたお店はいつも近所のおじいちゃんおばあちゃんがやってきて、「いつもの」って言うとハウスブレンドがでてくるっていうお店だったんです。
カウンターをはさんでお話をしているのでバリスタとお客さんが顔見知りだし信頼関係があって、たまにちょっと特別なお豆とかが出ている時に「今期間限定でこういうの出しているんですよ」って言うと「君のおすすめだったら飲もうかな」とか「誰々さんが言うなら間違い無いね」って飲んでくれる。すごく熱心にコーヒー を勉強したいっていうお客さんじゃなくても関心を持ってくれる。
信頼関係がないまま一方的に「スペシャルティコーヒーってこういう文化でこれくらいお金かかって、こういうもんだから納得して飲んでください」って言っても、お客さんが納得できないと思うんですよ。普通に深煎りのコーヒーが飲みたくて来たのに、一方的に言われてちょっと嫌だなって思う人ももしかしたらいるかもしれない。
なので自分が伝えたいことがあるならばまず相手のことを知って信頼を得ないとこっちの話も聞いてくれないなっていうのがあったので、自分のお店はカウンターを置いて、そこでお話をしながら飲んで欲しいというのがありましたね。
ーそれってすごく難しい話だなってわたしは思います。
難しくて時間がかかるので、あまりそれをやろうと思う人はいないと思うんですよ。どうしてそれを受け入れられるんでしょうか?
それが大変だって全然思わなくて、ずっとそれがやりたくてお店を出したかったんです。東京でカウンターでスペシャルティが飲めて、浅煎りのエスプレッソがあって、っていうお店って意外と少ないじゃないですか。回転率が高くないといけないっていうのもあるんだと思うんですけど、「喫茶文化とサードウェーブの文化が融合したもの」がやりたくて。
ー言われてみたらそういう店ってあまりないですね。
実はまこさんとまだ会ったことがない状態で初めてメーヴェさんに来た時、「接客しよう」という態度をされたことに不思議さを覚えたんですよ。こういうお店でそういう態度をされたことがなかったからかもしれないと思います。どういうわけでそういう考えが形成されていったんでしょう。
なんでしょうね。結構自然なことなんじゃないかなと思っていますね。
私がすごい庶民的な感覚なのかわからないんですけど、高いものを買う時ってそんなにぽーんとは買えないじゃないですか。
ブランドの服を買う時とかも「洗濯できるのか」とか「色移りするのか」「こういう素材を使っているからこういう着方をした方がいい」とか、もっと言うと「このブランドはどういう価値観でものを作っているのか」とか。
高いものを買う時はそういうことをちゃんと説明してもらって、知ってから納得して買いたいな、というのがあります。
やっぱりスペシャルティコーヒーって高いなって思うんですよ。飲み慣れてる人からしたらそのくらいの価値があり、値段がつくっていうのがわかるんですけど、例えば普段チェーン店とかでコーヒーを飲んでるっていう人からすると「え、なんでこんなに高いの?」ていうのが先行しちゃって、しかも飲み慣れていないものを飲むから美味しいのか美味しくないかもわからない。
「美味しいから納得しろ」って言われてもわからないだろうし。
フレンチレストランとかに行ってもサービススタッフの人が一個一個説明してくれるじゃないですか。「この料理はこういうのを使っていて」、みたいな。その感覚なんです。
スペシャルティコーヒーは高級品だからきちんと説明しないといけない。でないとスペシャルティコーヒーとか浅煎りの文化を広げたいっていっても広がらないんじゃないかなって思っていたので、割と自分のなかでは自然な流れかなっていうのはありました。
ーそうなんですね。たしかに、スペシャルティの店でコーヒーの説明を受けることはあっても、コミュニケーションのための対話自体を積極的にはされない気がするかもしれないと思いました。
「信頼関係」と今おっしゃっていましたね。コーヒーの説明することはその信頼関係を作るために必要だからやるのであって、それ以外の会話も使い分けてしているってことですか?
そうですね。話したくない、放っておいてほしいっていう人も来ますし、逆にすごくお話したい人も来ますし、私は結構お客さんにあわせてスタイルは変えてます。
もちろん最低限のコーヒーの説明は伝えますけど。
ーそれは誰でもできるようなことじゃなさそうですね。
そうですねぇ…。結構私が感受性が強いというか、昔から人の視線が気になるんです。人の細かい表情の動き方とか、どこを見ているかとか、この人寒そうにしてるな、狭そうにしてるなとかそういうのに敏感で。
それで受け取る情報が多くてストレスがたまるなと思っていたのですが、それってすごく接客に生かせるなと思って細かいところからこの人がどうして欲しいのかっていうのを読み取ろうとはしてます。
ーこのお店を作ってから、「お客さんの凝り固まった心をとかせたぞ!」みたいな瞬間ってありましたか?
ありますあります。
全然お話しない人で、結構心を閉ざしてるような、話好きでも無いのかなって人が通ってくれて、ちょっとずつ会話の量が増えていって、すごい笑顔みせてくれるとか。
別に無理に開かなきゃいけないってことはなくて、その人がそうしたかったらそうしてくれるといいなと思うんですけど。
専門店って緊張するじゃないですか。それで何回か来るようになってリラックスしてくれたり、「このお店落ち着く」とか言ってくれたりするとすごく嬉しいですね。
ーなるほど。だからほかのスペシャルティ専門店とは少し違う雰囲気なのかなぁと思いました。理想としているお店、憧れのお店はありますか?
それぞれのお店にいいところがあると思うんですけど、あんまりロールモデルにしたい店みたいのはなくて、部分部分で言うとかっこいいなと思うのはコーヒーカウンターニシヤ※5の西谷さんはバリスタとしてすごくかっこいいなと思います。
※5.コーヒーカウンターニシヤ…東京都台東区浅草にあるカウンター型のお店。バリスタの西谷恭兵さんは業界でもファンの多い著名な方。
ー動きがかっこいいってことですか?あり方が?
あり方ですね。
地元で働いていたお店も地元の人が集まる空間っていう部分ではいいお店だなって思いますし、でも「この店わたしの理想で完璧」っていうお店があれば、自分でやりたいっていうよりそこで働きたいってなったのかなと思います。全部が全部理想っていうのがなかったから自分でやろうと思ったんだと思います。
ーまこさんは結構本も読まれますよね。本の中の店とかでもないですか?
飲食店が出てくるのをあんまり読まないのかもしれない。
あ、でも漫画の『バリスタ』っていうのは好きです。イタリアンバールのバリスタのマインドが好きなのかもしれません。お客さんひとりひとりの好みを把握して提供するっていう。
高円寺という場所にお店を構えて
ー東京に出てきた時からずっと高円寺ですか?
最初の時は八王子の方に住んでて、夫と出てきてから住んでたのは阿佐ヶ谷です。阿佐ヶ谷に1年くらい住んで、そのあとに高円寺に出てきたんです。
最初高円寺ってちょっと治安が悪いイメージがあって、不動産屋さんにも「高円寺より阿佐ヶ谷の方が安全ですよ」みたいに説明されて阿佐ヶ谷に住んだんですが、隣の駅から遊びに来てもそんなに危険な感じや柄が悪い人がいっぱいいるって感じはないなと思って。
どちらかと言うとにぎやかだし、こっちの方が自分には合ってるかな。もう5,6年くらい住んでいます。
ーお店を出す時に他の街は考えなかったんですか?
高円寺に住んでから高円寺から出たいと思わなくなっちゃって。
ー素晴らしい。すごい合うんですね。
合いますね。いい意味で変な人が本当に多いなと思います。自分のスタイルを持っているというか。そしてそれを恥ずかしがらずに堂々としている人が多くて。
私は結構人の目が気になるタイプだったのですが、自分より全然変な人たちが堂々としていて、誰もそれをじろじろ見たりもせず、それが当たり前の光景なのがすごく生きやすなって思って。
ー変な人ってどんな人がいるんでしょう..?
裸足で歩いてるすごいひげの長いおじいさんはTシャツに神って書いてあったりして。本当に神様かもしれないみたいな人が歩いてたり、ピエロみたいな格好の人が歩いてたり、梟を腕に乗せながら歩いてる人がいたり。
ーすごい笑。いいですね。思った以上に変な街ですね。
都会なんですけど小さい街なので、近所に住んでる人とかはだいたい顔見知りです。
高円寺に住んでいる人って高円寺のことを「高円寺村」とか「高円寺自治区」とか言ったりするんですけど、街ですれちがったら「こんにちは」って声掛けあったりとかします。東京でそんなことあるんだってびっくりして。
だけどずけずけとプライベートに入ってくるみたいなことはなくて、顔を合わせたらお話するみたいな。その「人と人との距離感」がすごくちょうどいいなと思って。ここから引っ越すっていうのが考えられなくなっちゃいましたね。
ーまこさん自身も街歩いてると声かけられたりしますか?
しょっちゅうですね。お客さんともよく会います。常連さんと別のお店で会ったりとか、普通にお客さん同士で別のお客さんのこと「最近みないね」「どこのコーヒー屋さんに出没しているのかなぁ」とか話したりとか。笑
ー本当に小さい街みたいですね。でも都会で人が多いから変に目立ったりもせず暮らしやすそうです。
自分のお店としての高円寺への入り方って今後どうしたいって考えていますか?
街のコーヒー屋さん。街のコミュニティスペースになりたいなと思っていて、地元の人がきて、そこで知り合いができて、誰かと話したい時ここに来たら知ってる人がいたり新しく友達ができたり、高円寺の中でそういうポジションのコーヒー屋さんになりたいなと。
高円寺はそういう飲食店が多いんですけど。それプラスコーヒーも好きだし、アートとか文学とかも好きなので、お店の壁をを作家さんに貸して展示をしたりもしているんですが、コーヒーを通じてアートを体験したり本を読んだりとかいろんな芸術文化みたいなのがコーヒーを通して広がっていく場になるといいなと思いますね。
「1つのものごとから10を吸収した方が楽しい」
ひとつひとつのものごとへの考えこまれた姿勢
ーイベントとか結構やっていますよね。ご自身の興味あることをやっているのでしょうか?今力をいれてることってありますか?
そうですね。最近すごく人気があってよく開催してるのは哲学カフェです。私も対話が好きなので対話型の哲学カフェなんですけど、テーマをきめて参加した人みんなでどう思うかコーヒーを飲みながらリラックスしてお話しましょうみたいな。
ー面白そうですね。どんな方が参加されるんですか?
地元の方から、近所でお店やってる方とか、哲学カフェ界隈の方々。哲学カフェを主宰してますとかいろんな哲学カフェに参加してますっていう方とか結構幅広いですね。哲学の勉強される方に来てもらって、その方がファシリテーションをしてくださっています。
ー焙煎のワークショップもやってますよね。そういう企画ってどうやっているんですか?
企画してオファーしてっていうよりは、自分が行った先で知り合った人とたまたまご縁があって、「あ、カフェやってるんですか?じゃあそこで哲学カフェやりたいです」みたいに声かけてもらったりとか。
壁の展示とかもお客さんで最初来てくれてた人とお話してたら「私絵を描くんです」って言うので「壁を貸しているんでどうですか?」って。予期せぬところからご縁があって開催するみたいになることが多いですね。
ー変な力がかかってなくていいですね。今まこさんが一番興味持って取り組んでることってなんですか?
接客業をやりたいなと思ったのも、元々人に興味があるからなんです。どんな人なのかとかなにを大事にしているのかとかに最近興味が強くて、だからたぶん哲学対話とか、お店でお客さんのお話を聞いたりとかしていると思うんですけど、そういう「人と人が繋がって交流する」ということにすごく興味があるので、そういうことと、コーヒーをからめてイベントとかいろんなことやっていきたいなっていうのがありますね。
ー色々と広がりそうですね。まこさんの、すべての軸にあるものって自分ではなんだと思いますか?
そうですねぇ、私も友達が少ない方で、学生時代とかもあんまりちゃんと学校に行かずに本を読んで自分の内側の世界を深めていくのが好きだったんです。でもそろそろ目に見えないものをアウトプットしたいなと思えるようになって、それがいろんな形でいろんなところに出ています。わたしが焼くコーヒーもそうだし、わたしが話すことばとか接客中の会話とかお店のひとつひとつのものとかにも全部出てると思うんですけど、そういうのを表に出していきたいし、他の人のそういう部分も気になるので、内的なものがすごい軸ですかね。
ーそうなんですね。すごく個性的な方だなと思います。
まこさんとパートナーの光嗣さん、おふたりとも定期的にコーヒーの大会とかに出場されてますよね。大会とかには出なくてもよいくらいに世界観がしっかりしていると思うのに、ちゃんと出場して結果残されてるのすごいなと思います。
本当はあんまり大会とかコンペティション興味がないんですけど、個人でお店をやってると、誰かに具体的に点数をつけられて順位がつくみたいなこともあんまりないですし、たまに出るのはいい刺激になるなぁと思っています。
あと、今は小さい街で街のコーヒー屋さんとしてやってますけど、高円寺に全く来ませんっていう人もいると思っていて、お店や街も盛り上げたいという気持ちもあるのでそういうところに顔をだして知ってもらうとよりお店を知ってもらえる機会が広がるのかなと思って。あとは私が大事にしていることを知ってもらいたいから、まず結果を残して説得力を高めたりとか、興味を持ってもらえるようにするにはやっぱり必要なんだろうなと思って頑張って出ています。
ー偉いと思います。個人のお店って店主さんの個性が強いほど「閉じちゃう」と思っています。それは必ずしも悪いことではないんですけど、個性があるのに積極的に外に出ていくっていう態度がおもしろいなと思っています。
私もおもしろいなと思っているんです。結構他のお店の人から見てもちょっと変なお店って思われてるんじゃないかなと思っていて。変なお店だし変な焙煎士がやっているし、そういう人が大会で上位に入ってたりするとすごくおもしろいなって(笑)。
結構おもしろいかどうかも大事で、この人の生き方がおもしろいとかこうあると楽しいじゃんみたいな。自己主張が強い変な人が前にでていったら、この業界の人はどう思うのかなとか。
ーちょっとざわざわするみたいな(笑)。それはどんどん成績を残してほしいですね。
ー最後になりますが、これからやりたいことや今取り組んでいること、目標にしてることはありますか?
人を雇って育てたいなっていう気持ちはあります。うちは子どももいないので、お店を継いでくれる人も生まれないし、だったら少しでも「メーヴェの哲学」みたいなものを吸収して残していってくれる人がいるといいなとは思います。
それと、自分が女性だから苦労してきたこととかジェンダー的な問題とかもあって、業界で働く上での加害されないための立ち振る舞いとかを教えてくれる人とかってあまりいなかったんですよね。自衛しなくても加害されない環境があればいいんですけど、そうじゃないので、業界でどういうふうに振舞っていけば自分らしくみんな働けるのかっていうのは伝えていきたいなって思います。
ーそのお話聞きたいです。そういうスタッフさんからの「困ってます」って聞かないと救いの手が出せない部分だったりしませんか?
若い頃って自分が加害されてるのかホスピタリティとして喜ばれてるのかよくわかんないまま働いてて、あとになってから傷つくみたいなこともあります。
お店のサービススタッフとしてのスタイルみたいなところもあるのかなと思っていて。たとえば高級なお店に行くと「いらっしゃいませえ〜〜」とは言われないじゃないですか。きちんと「いらっしゃいませ」「ようこそ」みたいな。そういう話し方をした方がプロとして見られる。プロとしての立ち振る舞いができていると加害されるリスクが減るのかなって。
硬すぎるのも緊張しちゃうのでそのバランスは難しいんですけど、でも要所要所でたとえば帰るときは必ずお見送りするとか取り扱っている商品の知識をしっかり持っているとか、そういう部分にプロとしてこだわりと軸をもって一貫して行動していると舐められづらいというか。それにコーヒーの味にも説得力が増すし、全体的に満足度もあがるんじゃないかなと思います。
お客さんと距離感が近くなって友達みたいになるのはちょっと違うなと思っています。
京都で働いていたお店では「親戚と思いなさい」と言われたんですけど、親戚って近いけどたまに会うくらいの人で、近しいと思うけど敬語で話したり踏み込みすぎなかったりっていう距離感。そういうのを常に守り続けるとか。そうすると多分他のお客さんも入りやすいし、なあなあな感じで空気が淀んでしまう、風通しが悪いカフェになるのは嫌なので、そこの線引きはしっかり守りながらやってますね。
ーすごい。おもしろいです。まこさんは考えている範囲と見えている範囲の解像度が高いのかなぁと思いますね。軸のある人なんだなと思うんですけど、考え方と捉え方がどうなってるのかなと気になります。
なにかに具体的な影響をうけているというよりはたくさんのものから影響を受けて思考しているのかなと思うのですが、あまりそういう人は多くないので貴重な人だと思います。
好奇心、解像度高くものごとを見た方がひとつのものごとから1を吸収して楽しむよりは10を吸収して楽しむ方がお得じゃんみたいな。おもしろいじゃんみたいな(笑)。そう思います。
ーわかります(笑)。
今日は長時間ありがとうございました。今後の活動も楽しみにしています。
まこさんとお話していて感じたことは、ものを捉える視点の解像度が高いということでした。だからどんな話をしていても対象を落とすことなく、そのものごとの特徴を言葉にして挙げることが容易にできる。容易に言葉にできるということは、普段からそのように目の前に起きる物事をひとつひとつ丁寧に捉えている人なんだと思います。そこに「腰を据えたお店なんだな」という印象を持ちました。
これからコーヒー業界でも実力を発揮しながら、街に根付いた良いお店を作り上げていくのだろうなと思いました。
高円寺に行った際にはぜひ立ち寄ってみてください。
MÖWE COFFEE ROASTERS
住所: 東京都杉並区高円寺北2丁目10−6 ブルーバードビル 1階B号室
営業時間: 12:00-19:00
定休日: 月曜日