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のがみもゆこさん(漫画、イラストレーション)

漫画家、イラストレーターとして各方面でご活躍ののがみもゆこさん。彼女とお話するときは、その優しい態度と気の利いた冗談のバランスにいつも心満たされています。いちのがみもゆこファンとして、コーヒーの取材と称して彼女の仕事と生活を見せてもらいました。

インタビュー:しば田ゆき

写真:小池りか

「朝はコーヒーを飲むんだな」

-今日の珈琲はどちらの豆ですか?

「雨の日の珈琲」です。

雨の日に割引がある自家焙煎のコーヒー店なんですがめちゃくちゃ喋る店長さんで珈琲豆の話が止まらなくて(笑)

豆の匂いをひとつひとつ嗅がせてくれるんですけど、あんまり違いが分からなくて「すごい、すごいです。」「これは…コーヒーですね、コーヒーです。」とか言って(笑)美味しいんですけど。

-コーヒーをおうちで淹れ始めたのはいつからですか?

実家は全然コーヒーを飲まない家で大学生になってコーヒーを知って。最初は苦くてカフェラテしか飲めなかった。

私がコーヒーをいれるようになったのはきっかけがあって、池袋のカフェで一瞬バイトしたことがあったんです。そこがハンドドリップでコーヒーいれる店で。

そこのバイト本当に合わなくて(笑)

全然お客さんの来ない店でオーナーと2人で過ごすのが辛すぎて4日目に「学校との両立が難しい」と言って辞めました。

面接のときに「コーヒーいれたことありますか?」「ドリッパーの穴の数は何個のやつでやってる?」って聞かれてうわ、これは何を試されてるんだろうってなって(笑)「1こ…?いや3こ…?」とか言って。コーヒー一杯600円だったから「3こだっけ…?」とか言ってる人がいれてるってなると申し訳ない気持ちになって、練習しなくちゃって。

色々決まりがあってスケールで12gの豆をはかり、3分で抽出してってタイマー渡されて「3分以上かかると雑味が出るから」って言われて。ドリップする時のくるくるも見られて「最後のアクは雑味が出るから」「そこの壁を崩すと雑味が出るから」って言われたりして「ーーー雑味っ!!」って(笑)

コーヒーお願いしますって言われると嫌だ~ってなっちゃって。

-4日でやめるというのは早いですね。

私もやめるとか言い出せないタイプだと思ってたんですが。

足立の花火を見に行ったときで花火が「ドーン!」って上がって「よっしゃ!やめる!」って決めて。

「今日やめる今日やめる今日やめる」って考えながら店に向かって、

「やめます!ありがとうございました!」って帰ってきた。

-しょうがないですよね。

そのあと夫と一緒に住むようになって、「朝はコーヒーを飲むんだな」って思っていれるようになった。もともとコーヒーメーカーでいれてたんだけど壊れちゃって。そのとき結婚祝いでたまたまドリッパーを貰ってそれから家でドリップコーヒーをいれるようになりました。自分でいれて美味しいなって飲むようになるといれるのも楽しくなってきた。

雑味に対するトラウマもなくなり普通に飲むお茶みたいにいれたらいいんだ、と思って。コーヒー豆を旅行先で買うのとかも楽しいですよね。

-旅行はよく行きますか?

年1、2回行くかな?
キャンプ入れるともうちょっと。

-旅行はどうやって場所決めるんですか?

最近は行きたいサウナで選んだり。

-おふたりともサウナが好きなんですか?
ととのうんですか?

わたしはととのうのよくわからないですが、ゆうさん(夫)はととのう?

ゆうさん:ととのいます。

-ととのうってなんですか?瞑想みたいな?

そうそう。まわりと境目がなくなるみたいな。無になれる。サウナに入ってる時溶けちゃうってるから。みんなと一緒、みんなありがとう、みたいな。

-サウナ好きな人やばいですね。笑

レコード盤の速度

-もゆこさんは好きなことをよく漫画にしていますよね。好きなものいっぱいあっていいなって思います。

なんか生活とゼロ距離っていうか。思ったことをそのまま描いちゃってるから、創作というよりあまり練ってないものな気がしていて。

-エッセイみたいな?

うん、いちから物語を生み出せる人に憧れます。そういうの描いてみたい。

-メロウリバー(※1)は?

メロウ・リバーはほぼ日記です。思考の数珠つなぎみたいな。

ゆうさん:それを読んだ人が「川の流れのように感じられる」とかいい感じに解釈してくれたよね。レコードの回転数に例えてくれる人もいた。

※1.メロウリバー‥‥のがみもゆこさんの自主制作漫画。2017年に発表、展示を行う。
kindleで読めます→メロウリバー/のがみもゆこ

-レコードの回転数‥‥ですか?

ゆうさん:音楽ライターの松永良平さんがメロウ・リバーをレコードの回転数で例えてくれたんです。

7インチを33回転で聴いてるような感じって言ってくれてて、すげえわかる!って思ったんですよね。

レコード聴かない人は何言ってるかわからないかも(笑)

-音楽好きな人にはわかる!ってなるんですねー。‥‥あとで咀嚼します。笑
-お仕事のことを聞かせてください。今は高校の教師と漫画イラストをされているそうですね。

高校で美術の非常勤講師を12年やってます。大学卒業するけど何も決まってなかったとき講師やらない?って電話かかってきたんです。それが週2とかだったから空いた時間にバイトして。

就活って皆なにをやってるんだろう?みたいな感じで、気がついたら終わってて…。友達がスーツ着てるのとか見てたんだけどあんまり自分に結びつかなくて。

-昔から漫画かいてるんですか?

ちゃんと漫画を描いたのは大学4年で教育実習に行ったとき。クラスの子達にホームルームで毎日4コママンガを配って人気者になって(笑)

漫画っていいコミュニケーションツールだなって思いました。

それで長いのも描いてみたい、と思って日記漫画を描いてmaruchan(※2)で個展をしました。

※1.maruchan‥‥田端にあったカフェギャラリー。2016年に閉店。

-ずっとかいてるわけじゃないんですね。だからちょっと独特なんですね。

いや、中学生の時とか少女漫画描いてた!(笑)

でも最後まで終わらせられなくて、書きたいセリフだけかいてキャーッてなって終わり。漫画って自分の中のものをさらけ出しすぎて恥ずかしいなって。

特に恋愛漫画は絶対人に見せたくないし、こんな告白されたいんだ~って思われたくなくてこっそりやってた。

-今のスタイルと全然違うんですね。

「恋はチョコレート。苦くて甘い」とか「お前のことアイライクユー」とか。

-笑。当時はどんなテイストの絵でしたか?

誰の真似してたんだろう、矢沢あい先生かな。

maruchanで日記漫画を描いたときは瀧波ユカリ先生の「江古田ちゃん」みたいなのを描きたいって思ってました。

-それはこの中のどれですか?

おまんがって作品です。

-めっちゃいい。
この辺の流れとか意味わかんないです。笑

昔のやつ雑なんだよね。話突然かわったりするから(笑)

この頃は人に聞いた面白い話や自分で思ったことを順番に描いていって「終わり!」ってしてた。

-すごいこれ響きますね。就活生に響きますよ。

もゆこさんの漫画の魅力とこれから

-もゆこさんの漫画は読んだ人にどのように言われますか?

共感するとか、こういう風に考えることありますとかが多いかな。

-自分が狙った感じで届いていると思いますか?

いろんな人がいるから、必ずしも同じ気持ちになってほしいわけじゃないけど。でも「あ」って思ったことを文章とか絵にできると「これ私も思ったことある」っていう人にひっかかったりする。そういう細かいことを逃さずに描けるようにしたいなって。

たしかにわかるって思うことが多いんですけど、同時に「言われないとわかんなかった」ってことが多いなと思います。大事なこととか、いつもなんとなくひっかかってことととか絵にするの上手だなと。

そういう作業が好きです。

漫画のストーリーを考えるのは、ちゃんとやろうとするとすごい難しくて、起承転結とか、話を読ませてちゃんと落としてみたいなことを考えてたら、ネーム(※3)をきるのが、「はーっむずかしい、むずかしい」みたいになってくるんです。ペン入れの段階になると「絵描くの楽しい楽しいゾーン」に入るんだけど。

※3‥‥漫画の下書きのこと

-じゃああんまり作り込まないで書くのが得意なんですか?

最初はいきなり書き出しちゃってた感じでした。しっかり作らないと終わらないっていうのが分かって最後まで考えてから描くようになった。漫画は漫画を勉強しなきゃ描けないんですよ。主人公にこういう出来事があって、こういう気持ちになるっていう筋が通ってないと意味わかんなくなっちゃうっていう当たり前のことを最近学びました。

-これからも漫画をかいていきますか?

うんうん、漫画のウェイトを増やしていきたいな。

何年か前にやりたいこと、どういうふうに生きていきたいかを考えたんです。学校の先生は先生で楽しくて続けていきたいなと思っているんだけど、自分が発信することを仕事の軸にしていきたいなって思って。

-その場合はどんな形で?

漫画の仕事をもらえれば一番いいなって思ってるんだけどメロウ・リバーみたいなのを読みたいって言われることもあるので仕事をしつつ自分の考えもまとめていきたいなと。

自分がどういう媒体に合ってるのか、どういう漫画を描けるのか、なにを求められているのか、それは描きたいものなのかとか手を動かしながら考え中です。

-これまでの漫画作品でどれが一番お気に入りですか?

うーん、このへん(初期)のときは漫画よりイラストがやりたかったんです。だからひとコマひとコマイラストを描いてる感覚でイラストレーションをやってるんです私、っていうスタンスだった。

メロウ・リバーを描いたときくらいから漫画をちゃんとやる!って思った気がするから、これが一番気に入ってるかも。

-作品を見ると、この間に変化が見えますね。

コマ割りが違うからかな。ずっと4コマの枠で描いててメロウ・リバーで初めてコマを割ったんです。

-アーティストのアルバムって3枚目くらいまでが好きみたいのってありませんか?それでいうとメロウリバーでたとき「4作目かぁ・・・」と思ってドキドキしてたんですけど、実際展示を見に行ってすごいいい作品だなって思えて、嬉しかったです。

ゆうさん:洗練されすぎてないかんじで?

えっ雑味でてた!?(笑)

背景とかも上手じゃないんだけど描こうとしてるから意識が変わったような気がする。

ちなみにコンスタントに制作を続けてこれたのは1年に1回、はがちゃん(※4)が「のがみさんそろそろ展示しない?」って言ってくれてたから。誘われると「漫画描くか」みたいな感じで描いてたので。

※2‥‥はがちゃん:田端のカフェギャラリーmaruchanの店主芳賀さん。

今まではずっと自費出版で漫画を作ってたんだけど、最近本屋がすごく好きで。本屋にもっと私の本があったらいいのにって思っています。本屋に並ぶ本を作りたい。

もゆこさんのインタビュー中は夫のゆうさんがずっとレコードをかけてくださっていて、心地よい時間が流れていました。このインタビューに私がとても緊張していたことはその音楽も含めた空間によって緩和させられました。ありがとうございました。

もゆこさんがコーヒーを入れている姿を見て、もゆこさんとゆうさんの生活には、ずっと以前からコーヒーがあったんだなぁということを感じました。もゆこさんの漫画はいつも優しくて、趣味の良い冗談が効いていて、わたしの知るもゆこさんそのままだというところ、エッセイを書いているというお話を聞いて納得しました。

珈琲を飲む話でも「お茶のように飲めばいい」というシンプルな解釈でいれるようになったことを聞けましたが、コーヒーは解説する人が多いだけにそのシンプルな解釈にたどり着く人は少ないように思います。珈琲の器具も、もらったものだったり自然な流れの中にももゆこさんとゆうさんらしさがきちんと加えられていて、ご自宅の雰囲気もおふたりの洗練されているけれど緊張しずきないちょうどよい心地でした。
もゆこさんの自然体ででも考えて挑戦しながらものを発信し続けるスタイルをかっこいいなと思います。

個人的にはゆうさんにサウナの話をもう少し聞きたいと思いました。笑 またあらためて。

今後も作品を楽しみにしています、ありがとうございました。

のがみもゆこ

漫画家。メロウ・リバー、まどろみ姉妹など描いています。
高校で美術の講師もしています。文旦を剥くのが好き。都内在住。

作品は下記URLからお読みいただけます。
linktr.ee/mogaminoyuko