[つまみ読む生活]vol.37 Final. 真っ黒い犬がきた
「おはよう」のあなたも、「こんばんは」なあなたも、こんにちは。第37話です。今日はゴールデンウィーク最終日。明日から仕事が始まるってだけで気分が良くないのに、雨です。体に力が入らず起きたのも昼……でも今日はなんとしてもコラムを書くのだ。ずっとゴールデンウィークに書き上げるんだって決めていたんだもの。バスに乗って、お気に入りのカフェに来てパソコンを開いている、日曜の15時です。
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さて、突然に花ひらいたサボテンから始まった「人生のシーズン2」。前回や前々回に書いたように気楽に遠出する選択肢を得たり、考え方が変わったりして、自らが動くことで変化をもたらす!と信じて勇んでいたけれど、外から何かがやってくるということもあるのですね。
外からやってきた何か。それは犬です。突然、我が家に真っ黒い犬がやってきました。尾道から帰ってきて1ヶ月後、長年連れ添った愛犬とお別れしてちょうど1年後の、ある夏の日に。
その犬は、山梨のどっかの多頭飼育崩壊したブリーダーの元に産まれたそう。通りがかった人がその惨状を見て「どうにかここにいる犬たちを助けなきゃ……!」と動いてくれて、数匹を救出。至るところに里親募集の張り紙が貼られ、偶然にも遠く離れた私の家の近所にも貼られ、母の目に止まったのでした。我が家は犬のいない生活にも限界がきていた頃だったけど、「次の犬は、ご縁があるその時まで待ってよう」という意見で一致していました。来週行われるという里親会のことを知り、「見にいくだけ……」のつもりで連絡して伺うと、張り紙の子達の姿はなく、スタッフに聞くと「今週は来れなくなったんです。次回の里親会には必ず」とのこと。その日はアンケートだけ記入して帰りました。
そして2週間後、ついに対面。里親会の人が「お〜待ってました!はいどうぞ!」とこちらに犬を連れてきてくれて「もう連れて帰って平気ですよ」という感じの空気が流れてあたふたする我が家。里親から引き取るには審査があって、すぐには決定しないと聞いていたけれど、あの2週間の間に話が勝手に進んでいたらしい。抱っこしたらもう手放せないくらい愛おしくて、受け入れる準備も全くしていなかったのにも関わらず、これから20年近く共に過ごすであろう家族ができてしまったのでした。そうして、昨日とは全く違う、思いがけない新しい生活がスタートしました。まさに新シーズンで登場する、新キャラです。
久しぶりすぎる子犬。とにかく大変で何をするにも手探りでした。ドックフードを変えただけでウンチがゆるくなったり、夜中に吐いてしまったり。私が与えるもので、この子の体が出来ていくのだと実感した。24話の「食べることは、生きること。生きることは、食べること?」という話では、命の終わりに近づき、食べることをやめてしまった愛犬について書いたけど、まさに真逆だった。命を始めていくために、とにかく食べる。そしてすごいはやさで大きくなっていった。ご飯にがっつく姿を見る度に、なんとも言葉で言い表せられない感動があった。食べることが体に直結しているのを目の当たりにすると、自分の食生活もちょっと気をつけないとなという気にもなる。20年後も私は元気でいないとだめだ、この子のために。仕事も頑張るぞ。「絶対に君を幸せにするから」という強い気持ちが、今の私を動かしている。私の目に、光が入ったようだ。
犬がいると、せっかく選択肢に入れた遠出も難しくなるだろうけど、それでもいいと思える。否が応でも散歩で外に出なくてはならくなるし。家の近くでも外に出ると、今の季節なんかは緑がモリモリで花の匂いがそこらじゅうからする。犬の散歩中は、ただ街を歩いて自然を感じてぼーっとすることができて、いつもの街並みにもいちいち感動している。真っ黒な犬はとても陽気で、人気者だ。愛想を振り撒きながらズンズンと歩くので散歩している人(犬)や子供から挨拶をされるのが新鮮だった。挨拶されると、「あ、私っているんだ」とはっとする。なるべく人と目を合わさず、どうでも良い格好でさっさと用事を済ませるような私だったのに。友達とや1人で散歩をするのとは違う、独特の時間が生活に組み込まれることで、心も体も少しずつ健康になっていっていると思う。
そうした日々のなかで、「あ、私はもう大丈夫かもしれない」と気づいた。何かあるたびに深く考え込んで自分のことを結論づけたり、何もない時には睡眠をせず怠惰な生活をしたりと、このコラムを書いていた間にも自分が立っている足元の地面が脆かったように思うけれど、愛するものがいる時の私は、とても強いのだ。「大丈夫」がずっと続くわけがないのも分かっているけど、コラムを書きながら気づいたことを宝物にしてこれからは歩んでいこうと思った。
実は、今回で「つまみ読む生活」は最終話です。当初は1年くらいの予定でしたが、私の不定期すぎる更新で、2年半くらいかかってしまいました。ここで書かせてくださる機会をくれて、どんな話でも許容してくれた柴田さん、そして一度でもこのコラムを読んでくださった方、本当にありがとうございました。またどこかでお会いしましょう!
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「つまみ読む生活」
食べるように読み、吐くように書きます。ここ3年、1年おきに人生がガラッと変わってる。
こや