ivy

[路端のブランチ]vol.6 白昼の晩酌

Column

適当な曲をイヤフォンで耳に突っ込んで、ぼろぼろのスニーカーに足をつっかけて、駆け出した。誰にもバレていないだろうけど、ボトムスはチェックパンツではなくGAPのパジャマのズボン。上にカレッジパーカーを着たら意外とサマになる。

上野で誰かと呑むときは、待ち合わせらしい待ち合わせをしない。家から近いのもあるし、誰かが勝手に呑んでいる時、「今上野で呑んでるよ」とだけメッセージが入るからだ。

予定がない日曜日、頭の中ではさぞキラキラしたことしようと思っていた。ああ、花でも買いに行こうか、映画を見ようか、美術館にでも行こうか。散々悩んだ挙句、タイミングよく友だち数名が上野にいて、昼の1時からブランチを共にした。

やっぱりここか。気がついたらいつもの汚い立ち飲み酒場だ。くすんだ木のカウンターがコの字型になっていて、酔っ払いがフォーメーションを形成している。

テーブルに着いたら4人の卓にキリンの大瓶2本、煮込みとポテサラ。まだ始まって間もないか。満員なんだけど、そもそも複数人で飲んでいる客は私たちを除いて2,3組くらい。で、その中でもざっくり若者に括れそうなのは、本当に私たちしかいない。談笑するでもなく、旨そうな顔をするでもなく、ただ黙々と白昼の晩酌を繰り広げる周囲の客からしたら、きっと浮いて見えるんだろうなあ……けれど、彼らはこちらに目もくれない。テレビの競馬中継と手元の競馬新聞にしか興味がなさそうだ。

私が合流して、乾杯するのとほぼ同時に焼き鳥が到着!甘いタレとパリッとした焼き目。特筆すべきようなものではないかもしれないけど、ジョッキの8割くらいまで焼酎で埋まった、セルフ式レモンサワーとこれまたおあつらえ向きじゃないか。

なんでもそこそこ旨いけど、肝心なところはそれよりも安い、早い、これに尽きる。立ち飲みで、一番落ち着かない入口スレスレで、それでもお構いなしに会話が弾むいつものメンバー。会話に負けないくらいのペースで景気づけの酒と肴が運ばれてくるこここそ、最高に居心地がいい。

適当に何品か頼んで、幾つか空き瓶も増えてきて、それでもたぶん、せいぜい1人1000円ちょっとくらいしか使っていない。これなら次の店へ向かう足取りだって軽い。

さて、くだらない話も盛り上がってきたし2軒目行こうか。

[路端のブランチ 序文]

 日曜日、時計を外す。
 そろそろ昼飯を食っておこうとか、もう帰ろう、とか考えることすら億劫だ。あまりに遅刻癖が治らないから、仕方なく間に合わせのチープカシオを平日だけつけるけれど、基本的には時計を見られない。類は友を呼ぶというが、周りもそんな輩が不思議に多い。
 そういう奴らと遊んだり、野暮用を済ませたりすると、自ずと昼飯はグダラグダリとしてしまう。開店前に並ばなきゃいけない飯屋に休みの日を使ってわざわざ行くなんて、僕らの頭には浮かばない。
 時間を気にせず、その時いた場所でサクッと食うメシが一番だ。   
ivy