[嘘のたべもの]vol.7 たぬきのやり方

Column

元気なさそうだから、という理由で早朝に釣った魚を渡された。

数ヶ月前のこと。沖縄の友人が、八丈島に出張があるということで、その帰りに都内にやってきた。わたしたちはせっかくの機会だと、感染に気をつけながら少しだけ会うことになった。何名か友人も同席し、久しぶりの邂逅はとても有意義で楽しかった。

その際、発泡スチロールに入ったムロアジという魚を2匹、渡された。くさやの原料となる魚らしい。

わたしが魚を捌いたのはおそらく中学生以来だ。大変なことだと思った。

けれどもせっかくの機会。こんなことでもなけりゃあ魚を捌くなんてことないもの。一念発起して腹を括る。

YouTubeを見ながらアジを捌く。包丁が切れなすぎるのもあって、そこはかとなくイカれた感じになった。

わたしはそこはかとなくイカれたなめろうとツミレ汁を作って食べた。出来栄えとしてはそこそこかなぁ。もっと上手くなりたいと思った。

「いきなり魚あげてごめんね。それ、たぬきのやり方だね、って友人に言われて。民話の読みすぎかな(笑)」
沖縄の友人は少し申し訳なさそうにメッセージをくれた。

いや、そんなことないよ。たしかにわたしにとって、魚を捌くのは大変なことだけれど。でも久しぶりに新鮮なものを自分で料理して食べるっていうことをした。その手応えごと、血肉になる。

生きた魚で英気を養う。シンプルだけど大事なことだと思った。なんだか、生の手応えを受け取った感じがした。

そんで彼女はLINEでわたしに、「チバリヨータイ(がんばってよ)」って言ってくれた。

[嘘のたべもの]

名前:づ
手間をかけずに栄養をとりたいと考えている。
げんきなときと、そうでない時がある。
謎犬愛好家です。